運動の効果は摂取した飲食物の栄養効果に影響する。言い換えれば、同じものを食べても、運動をするかしないかで栄養効果が異なる。
たとえば、摂取したタンパク質が、筋肉合成などのからだづくりにどの程度利用されたかは「窒素出納」という指標で評価される。12週間ベンチプレスなどのトレーニングをすることによって、トレーニング前よりも窒素出納が増大する。つまり、運動をすると食事のタンパク質量を増やさなくても、摂取したタンパク質の体への蓄積割合が増大したことを意味する。このように、運動は摂取した栄養素の栄養効果や、体の栄養状態に大きな影響を及ぼす。
また、夜たくさん食べると太りやすいが、朝たくさん食べても太りにくい、ということは経験的に知られていることだろう。これをラットを使った実験で示したデータがある。同じ量の砂糖を摂取しても、活動期の前に摂取したときのほうが休息期の前に摂取したときよりも血中中性脂肪濃度が低い。つまり、運動の効果は、食事の摂取タイミングによって異なることを示している。
運動してもきちんと食べないと、運動の効果が得られないばかりか、健康を害することにもなりかねない。食事も運動もどちらも大事なのだ。スポーツ栄養学とは、健康のために運動するときの栄養・食事のあり方も対象とした学問なのである。
「バランスの良い食事」というのは良い食事の代名詞としてよく耳にするが、具体的にどういう食事のことを指すのか理解している人は少ないのではないだろうか。日本食には「主食」(ご飯、麺類、パンなど)、「主菜」(肉、魚、卵など)「副菜」(野菜、海藻、きのこなど)という区別がある。これに「果物」、「乳製品」を加えた5つのカテゴリーの食品を摂ることで、必要な栄養素を摂ることができる。
ご飯と鶏の唐揚げという「主食」と「主菜」だけの食事を摂った場合、エネルギー、タンパク質、脂質、炭水化物は成人男性の1食に必要な量をそれなりに満たしているのだが、ミネラルとビタミン類の摂取量が足りない。この食事に「副菜」の五目ひじきとほうれん草のお浸し、「果物」のオレンジ、「乳製品」の牛乳を加えると栄養成分バランスが大きく改善される。
ご飯やパンといった「主食」は炭水化物以外の栄養成分をほとんど含んでいないと思われがちであるが、それは間違いである。さきに述べた食事のタンパク質の3分の1から半分は主食によるものであり、主食は種々の栄養成分の供給源でもある。パンやご飯の量が少なすぎると、ほかの食品を組み合わせても栄養バランスの調整ができない。よって、主食は十分な量を摂ることが大切なのだ。
ジムでの運動を継続して、効果があったと感じることができるのは、筋肉がついた、痩せた、体力がついたということが実感できたときだろう。
スポーツ科学の視点で見る運動の効果は体脂肪の減少や、筋肉の肥大といった体組成の変化に関わる効果や、筋力の増大、持久力の増加など、運動能力の向上に関わる効果などに分類できる。では、運動における栄養・食事の役割とは何か。
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