武士道

未読
武士道
出版社
出版日
2007年04月05日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

本書は、日本人の道徳や価値観の源を欧米に紹介すべく1889年(明治32年)に著されたものである。本書で著者は、現代にも通じる真理を見通している。

たとえば、次のような事例が紹介されている。贈り物を贈るとき、私たち日本人は「つまらないものですが」という言葉を添える。しかし一方、アメリカ人はその贈り物がいかに素晴らしいものかという説明を付け加える。日本人の場合は、君のような善い方にはどんな善いものもふさわしくないという気持ちが込められており、アメリカ人の場合は、君のような善い方には善いものをあげるのでなければ侮辱にあたるという考えがその背後にあるのである。一見離れて見えるそれぞれの考え方には、相手を敬う気持ちが共通して含まれており、どちらも理解できないものではないと著者は言う。

社会も経済もグローバル化が進行する現在、別の文化圏の相手との違いにぶつかる機会はますます増えている。こうしたグローバル化の潮流の中で「日本的経営」が再評価されているように、改めて日本的なるものを意識し、ビジネスに活かすということも一方では起こっている。

本書を読むと、当たり前になっている自分の行動規範や感覚が、じつはなかなかにユニークな、日本独自のものであることを再発見することになるだろう。それは、文化圏を異にする相手の、表面的な違いの奥にある考えを読み取る目を養い、真の協調関係を築く力になるはずだ。自分たちの良さを活かす方法を見つけるヒントにもなるだろう。

みなさま、今こそぜひご一読を。

ライター画像
熊倉沙希子

著者

新渡戸稲造
(1862~1933)
農業経済学者、教育者、思想家。南部藩士の息子として盛岡に生まれる。東京外国語学校を経て札幌農学校に入学、クラークの感化を受けてキリスト教に入信する。同級生に内村鑑三がいた。アメリカ・ドイツに留学の後、台湾総督府技師などを経て、第一高等学校校長、京都帝国大学教授、東京帝国大学教授、東京女子大初代学長などを歴任。1920~26年、国際連盟事務局次長として国際舞台で活躍。世界平和と日本の発展のために尽くした。代表的な著作に、『農業本論』、『修養』、『武士道』(英文)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    武士道は、「武士がその職業においてまた日常生活において守るべき道」であり、仏教、神道、儒教の影響を受けて形成された。
  • 要点
    2
    武士の守るべき道徳には、正義の行いをする「義」、その行動を実行するための「勇」、愛情や憐れみの心である「仁」などがある。それらを併せ持つことでより高い徳を身につけることができる。
  • 要点
    3
    武士道の精神は、武士の中だけにとどまることなく民衆に広く伝播し、国民全体の道徳観念をかたちづくった。

要約

武士道とは

日本人の道徳の源

新渡戸が本書を著そうと考えたきっかけは、2人の人物から投げかけられた問いにある。新渡戸がベルギー人の法学教授に、日本には宗教教育がないという話をしたとき、この教授は、では日本ではどのようにして道徳教育を行うのか、と驚きながら聞いてきた。また、アメリカ人であった自分の妻からも、日本の思想や風習について、なぜそれが行われているのかと説明を求められることがしばしばあったという。

これらを受けて、自分の善悪の感じ方や行いを改めてふりかえったとき、新渡戸はその思想の源は武士道にあるのではないかという考えに行き着いた。

こうして書き始められた本書は、日本人の道徳観念を支えている武士道というものについて、ときに欧米の歴史や文化と対比させながら紹介したものとなった。

武士道の起こり
apollob66/iStock/Thinkstock

武士道とは、「武士がその職業においてまた日常生活において守るべき道」であり、文章で表現されている法律とは違い、各々の心に刻まれている掟である、と新渡戸は述べる。

そして、「武士道はその表徴たる桜花と同じく、日本の土地に固有の花である」という、よく知られた書き出しから、本論は始まっていく。

封建制度の時代において、武士は名誉と特権と、そしてそれらに伴う責任を持った階級であった。彼らはそれぞれが異なる集団に所属しており、常に刃を交える可能性があったので、フェア・プレイを促すような、何か共通するルールが必要であった。

そして、そこで打ち立てられたルールは、単純に戦闘を律するだけではない、精神的な部分を多く含むものだった。それには宗教が大きく関与していた。つまり、ヨーロッパにおいて、キリスト教が騎士道に「霊的素材を注入した」ように、日本においては、仏教、神道、儒教が武士道の精神的な部分を形成したのである。

まず仏教は、武士道に、運命に逆らわないという平静な態度や、生へ執着しないという心がまえを与えた。次に神道は、主君や祖先、親を敬い、服従することを武士道にもたらした。そして、武士道の道徳的な部分に最も大きく影響したといえるかもしれないものが儒教である。親子の愛情(父子の親)や、年長者への敬い(長幼の序)といった考えは、もともと日本民族が持っていた性質とも合致し、よくなじんだのである。

【必読ポイント!】武士の掟

「義」とは何か
Nisangha/iStock/Thinkstock

新渡戸の挙げる、武士の掟のいくつかを紹介していこう。

まずは、武士道の中心的な柱である、「義」である。これは、卑怯なこと、曲がったことを許さない、まっすぐな心で断じて事を行うことを言う。林子平という武士の言葉によれば、それは決断力とされる。「義は勇の相手にて裁断の心なり。道理に任せて決心して猶予せざる心をいうなり。死すべき場合に死し、討つべき場合に討つことなり」。

なお、私たちになじみ深い「義理」という考えは、義から派生したものである。そして、新渡戸は「義理」について次のように言及している。本来の意味は、

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要約公開日 2014.12.22
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