ウェルビーイングのつくりかた

「わたし」と「わたしたち」をつなぐデザインガイド
未読
ウェルビーイングのつくりかた
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ウェルビーイングのつくりかた
出版社
ビー・エヌ・エヌ

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出版日
2023年09月15日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書は、セルフケアや幸福論の本ではない。企業経営や公共政策を主眼とした本でもない。誤解を恐れずに言えば、本書は、プロダクト開発とイノベーションの本である。

論じられているのは、「どうすれば人々のウェルビーイングに資するサービスやプロダクトをデザインすることができるか」ということだ。ウェルビーイングの研究と実践を牽引してきた著者らは2020年、『わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために その思想・実践・技術』を刊行した。本書は、理論と実践の両方でそれを深化させたものである。特に「ゆ理論」は、著者らがこの場で初めて紹介するフレームワークだ。

「本書は学術研究への誘いではありません……ただ、作法は異なっていても、学術的な研究のエッセンスやノウハウをデザインに応用することは有意義だといえます」と述べる著者らに、要約者は深く同意する。哲学や心理学、工学などのアプローチが盛り込まれた本書の内容を実践することは、決して容易ではない。しかしながら、「ウェルビーイングとは何か」「ウェルビーイングはどのように実現されるべきなのか」という原理的な問いを深掘りせずして、人々のウェルビーイングに貢献する真のイノベーションは生まれないだろう。

気候変動、格差の拡大、社会の分断……私たちの目の前には、社会課題が山積している。それらを解決するのは自分ではない、とあなたは感じているかもしれない。でも、本当にそうだろうか。サービスやプロダクトの開発に携わるすべてのビジネスパーソンに本書を読んでほしいと願う。

ライター画像
奥地維也

著者

渡邊淳司(わたなべ じゅんじ)
1976年生まれ。博士(情報理工学)。日本電信電話株式会社(NTT)上席特別研究員。人間のコミュニケーションに関する研究を触覚情報学の視点から行う。同時に、共感や信頼を醸成し、さまざまな人々が協働できる社会に向けた方法論を探究している。2024年1月開催予定の展示会「WELL-BEING TECHNOLOGY」の企画委員長を務める。著書に『情報を生み出す触覚の知性』(化学同人、毎日出版文化賞〈自然科学部門〉受賞)、『情報環世界』(共著、NTT出版)、『見えないスポーツ図鑑』(共著、晶文社)、『ウェルビーイングの設計論』(監修・共同翻訳、ビー・エヌ・エヌ)、『わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために』(共監修・編著、ビー・エヌ・エヌ)等、多数。

ドミニク・チェン
1981年生まれ。フランス国籍。博士(学際情報学)。NTT InterCommunication Center研究員、株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て、現在は早稲田大学文学学術院教授。近年ではグッドデザイン賞審査員(2016〜)、21_21 DESIGN SIGHT『トランスレーションズ展─「わかりあえなさ」をわかりあおう』(2020/2021)の展示ディレクターを務めた。現在は主にテクノロジーと人、そして人以上(モアザンヒューマン)の関係性を研究。著書に『コモンズとしての日本近代文学』(イースト・プレス)、『未来をつくる言葉─わかりあえなさをつなぐために』(新潮社)、『ウェルビーイングの設計論』(監修・共同翻訳、ビー・エヌ・エヌ)、『わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために』(共監修・編著、ビー・エヌ・エヌ)等、多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    経済発展を至上とする社会構造や、人や自然を道具と見なす価値観の限界が露呈する今日、ウェルビーイングという概念が注目されている。
  • 要点
    2
    これまでは、個人の状態を指す「“わたし”のウェルビーイング」か、集団の平均値を表す「“ひとびと”のウェルビーイング」が重視されてきたが、これからは、個人と個人、個人と集団の相互作用に着目する「“わたしたち”のウェルビーイング」が重要となる。
  • 要点
    3
    サービスやプロダクトを開発する際は、「ゆらぎ」「ゆだね」「ゆとり」に着目した「ゆ理論」の視点から考えることが重要だ。

要約

ウェルビーイングとはなにか

「構成概念」としてのウェルビーイング

ウェルビーイングとは、「well=よく、よい」と「being=存在する、〜の状態」が組み合わされた言葉だ。本書はウェルビーイングを、“その人としての「よく生きるあり方」や「よい状態」”を指す概念として用いている。

「福祉」「人々の満足度」といったように、本書の定義とは違う意味でこの言葉が使われていることも多い。2021年12月のWHO(世界保健機関)文書「Towards developing WHO's agenda on well-being」を見ると、健康の定義は「精神的、肉体的、社会的によく生きることを含んだポジティブな状態」であると広く受け入れられている一方、「ウェルビーイングの概念については、誰もが合意できるかたちでの厳密な定義はまだなされていない」と説明されている。

ウェルビーイングが厳密に定義されていない一因は、ウェルビーイングを「構成概念」だと捉える考え方があるためだろう。「構成概念」とは、ある状態やメカニズムを理解するために仮説的に導入される概念のことだ。たとえば「天気」は、日照、降雨、温度、湿度といった「天気」を構成する指標を特定し、それを測定することによってしか捉えることができない。ウェルビーイングも同様に、ウェルビーイングを構成する要因を明らかにし、それらの測定方法を具体的に定めることで初めて、状態を把握することが可能になる。翻っていえば、ウェルビーイングを考えるときは、その構成要因の特定と測定方法の設定が重要になる。

なぜ今ウェルビーイングなのか
Khanchit Khirisutchalual/gettyimages

テクノロジーの進化によって推し進められ、大量生産・大量消費、生産性・効率性の追求、個人間競争によって支えられた従来の発展モデルは限界にきている。

「第2次世界大戦以降の、環境破壊を起こし、持続性に乏しいシステムは時代遅れであり、人々の幸福を中心とした経済に考え直すべきだ」

これは、2021年5月に開催予定だった「世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)」に関連した、同フォーラム会長の発言主旨だ(会議はコロナ禍で中止された)。また、WHOは同年12月、前述の文書において、「Economic driven(経済主導)」の社会から「Well-being」を核とする社会へのパラダイムシフトを掲げた。

人や自然を道具とみなし「役に立つか」で値打ちを判断する時代は終焉を迎え、対象の「存在そのもの」を慈しみ尊重する時代が到来しようとしている。「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」や「サステナビリティ」といった概念とともに、ウェルビーイングという“その人”のあり方に寄り添う概念が重視され始めた背景には、この文脈がある。

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要約公開日 2024.05.18
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