ウェルビーイングとは、「well=よく、よい」と「being=存在する、〜の状態」が組み合わされた言葉だ。本書はウェルビーイングを、“その人としての「よく生きるあり方」や「よい状態」”を指す概念として用いている。
「福祉」「人々の満足度」といったように、本書の定義とは違う意味でこの言葉が使われていることも多い。2021年12月のWHO(世界保健機関)文書「Towards developing WHO's agenda on well-being」を見ると、健康の定義は「精神的、肉体的、社会的によく生きることを含んだポジティブな状態」であると広く受け入れられている一方、「ウェルビーイングの概念については、誰もが合意できるかたちでの厳密な定義はまだなされていない」と説明されている。
ウェルビーイングが厳密に定義されていない一因は、ウェルビーイングを「構成概念」だと捉える考え方があるためだろう。「構成概念」とは、ある状態やメカニズムを理解するために仮説的に導入される概念のことだ。たとえば「天気」は、日照、降雨、温度、湿度といった「天気」を構成する指標を特定し、それを測定することによってしか捉えることができない。ウェルビーイングも同様に、ウェルビーイングを構成する要因を明らかにし、それらの測定方法を具体的に定めることで初めて、状態を把握することが可能になる。翻っていえば、ウェルビーイングを考えるときは、その構成要因の特定と測定方法の設定が重要になる。
テクノロジーの進化によって推し進められ、大量生産・大量消費、生産性・効率性の追求、個人間競争によって支えられた従来の発展モデルは限界にきている。
「第2次世界大戦以降の、環境破壊を起こし、持続性に乏しいシステムは時代遅れであり、人々の幸福を中心とした経済に考え直すべきだ」
これは、2021年5月に開催予定だった「世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)」に関連した、同フォーラム会長の発言主旨だ(会議はコロナ禍で中止された)。また、WHOは同年12月、前述の文書において、「Economic driven(経済主導)」の社会から「Well-being」を核とする社会へのパラダイムシフトを掲げた。
人や自然を道具とみなし「役に立つか」で値打ちを判断する時代は終焉を迎え、対象の「存在そのもの」を慈しみ尊重する時代が到来しようとしている。「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」や「サステナビリティ」といった概念とともに、ウェルビーイングという“その人”のあり方に寄り添う概念が重視され始めた背景には、この文脈がある。
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