ホスピス医として働き、30年近くの間に4000人以上の患者さんを看取ってきた著者によれば、看取りの現場では最初のうち、自分や自分の人生を否定する患者さんが多いのだという。中でもよく「迷惑をかけたくない」という言葉を耳にする。かつては家族や会社のために一生懸命働いてきた人でも、病気や加齢で体の自由がきかなくなると、他者や社会の役に立たなくなったことに絶望してしまう。そして、自分には何の価値もない、周囲に迷惑をかけるだけの存在なのだと自分を責め、早く死にたいと願い、これまでの人生さえ無意味だと嘆くのである。
人生にはどうしても、人の手を借りなければならない局面がある。そんなとき、「お互い様」と許し合う姿勢も、人が穏やかに、幸せに生きていくために不可欠なことだ。若い人や健康な人でも、人に迷惑をかける自分を肯定できずに、自分なんていないほうがいいと感じる人は、たくさんいるのではないだろうか。
私たちはさまざまな理由から自分を否定し、責めてしまう。その気持ちそのものがなくなることはないが、人は誰でも、幸せになるべき存在だ。死を目前にした患者さんも、自分を肯定し、幸せになることができる。
今の自分を受け入れ、「自分は生きていていい」と思えるようになること。この世を去る瞬間まで、穏やかで幸せな人生を送ること。その第一歩は、自分を否定する気持ちを手放すことだ。
世の中には、自分を否定してしまっている人がたくさんいる。ここで伝えたいのは、今の自分を「Good Enough」(それで良い)と肯定し、受け入れることの大切さだ。自分を否定せずに、今の自分をそのまま肯定することは、「自分は存在していていい」と心から思えるようになることだ。こう思えることは、本当の意味の幸せを手に入れることでもある。しかし、自分のことを否定しないのは難しい。なぜなら、「自分を否定していること」に気づくことが難しいからだ。
たとえば「死んでしまいたい」という気持ちを抱くのは究極の自己否定であるが、その渦中にいる人が「自分自身を否定している」と認識できるケースは少数だろう。また、子どもの頃から「ダメな子」と否定されてきた人は、「自分はダメな人間だ」という考えが当たり前になってしまう。すでに一生懸命頑張っているのに、「まだ努力が足りない」と自分を追い込んでしまう人もいる。こうした人は「真面目」と評価されやすいが、その一方で自分を否定していることに気づくことができない。
自分を否定する気持ちに気づく一つの方法は、信頼できる人の言葉に耳を傾けることだ。自分を否定している人は、一般の基準とはかけ離れた、自分の基準で自分に評価を下していることが少なくない。誰かが「あなたが存在してくれて嬉しいよ」「あなたは十分頑張っているよ」と言ってくれたら、その言葉を素直に聞き入れてみよう。
自分の気持ちを否定しないことも大切だ。たとえば、あなたがつらさやしんどさを感じたとき、他者への嫌悪感や憎しみを抱いたとき、その気持ちを押し殺そうとしてはいけない。
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