著者は、とある大学の経済学部の新入生にこう語った。
「有名な経済学者の言葉に『クールヘッド(冷静な頭脳)とウォームハート(温かい心)』という表現があります。冷静に分析する一方で、人間の幸せな暮らしを実現することにも思いをめぐらせてください。なぜなら、人間の営みや心理を理解していなければ、現実からかけ離れた分析になってしまうかもしれないからです」。
人工知能(AI)が優秀な「クールヘッド」なら、人間の強みは「ウォームハート」で、その根底には「想像力」がある。「生成AI」時代が本格的に始まった今、私たちがAIと対峙し、使いこなすためには想像力が必要だ。また、未来の自分や世界のために今何ができるのか、どう生きるか。そのカギとなるのが、想像力なのだ。
一口に想像力と言っても、さまざまな種類がある。本書では、身近な人から海外の人たちまで、自分以外の他者を想像する力を「ヨコの想像力」、未来の世界や自分につながる想像力を「タテの想像力」と呼ぶ。
日本人は想像力を伸ばすことが苦手である。そこには7つの要因があるが、ここではその中から4つを取り上げる。
まず挙げられるのは、とにかくリスクを排除しようとする傾向だ。元陸上選手でスポーツコメンテーターの為末大さんは、「私たちの国は『なにかあったらどうするんだ症候群』にかかっている」とコメントし、大きな話題となった。過度なリスク排除による現状維持志向は、よりよい未来を想像する力を失わせてしまう。
次は、根強い前例主義である。「うちの会社では、以前からこうしている」などと古い考えに固執して変化を拒んでいると、想像力は枯渇してしまう。
3つ目は、自分の思考や行動に自らブレーキをかけてしまうことだ。特に最近はその傾向が強く、作家・演出家の鴻上尚史さんは、著書『同調圧力のトリセツ』の中で「若い人たちと何かをしようとするとき『そんなことをしていいんですか?』という言葉を聞くことが多い」と述べている。自分の行動に自らブレーキをかけてしまえば、想像力は飛躍できるはずがない。
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