わが投資術

市場は誰に微笑むか
未読
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ジャンル
出版社
出版日
2024年03月01日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

国税庁が2005年に公表した「長者番付」に1位として掲載されたのが、本書の著者・清原達郎氏だ。当時は、ヘッジファンドのタワー投資顧問で運用部長を務めるサラリーマンだった。

ヘッジファンドとは、「顧客から預かった資産を代わりに運用して利益を出す投資会社」を指す。著者はそこで「K1ファンド」を立ち上げ、25年経ったところでその閉鎖と引退を決めた。ファンドにその報酬のほとんどを注ぎ込み、運用資産の半分を担っていた清原氏の個人資産総額は、ファンド閉鎖時にはおよそ800億円を超えていたという。本書はその中で培われたノウハウをすべて公開しようと企図したものだ。大きな浮き沈みの中で学んだこと、感じたことが余すことなく書かれている。

ただし、よく見る投資本のようにグラフや図表が盛りだくさんの“具体的なハウツー”ではない。やさしい口ぶりで教えてくれるわけでもない。ここにあるのは、数々の失敗体験と、そこからの大きな成功によって得られた“リアルな声”だ。いかにリターンを得られたかによって評価されるヘッジファンドの厳しい世界を示しているが、「株式投資の楽しさも伝えたい」という思いもこぼれている。

咽頭がんの手術で声を失い、結果を出し続ける情熱も失ったという著者。しかし、ITバブル、リーマンショック、パンデミックを生き抜いてきた「実践の歴史」には、熱く人間的な感情が香る。そこにあるのは、投資ノンフィクションとしての一代記だ。

著者

清原達郎(きよはら たつろう)
1981年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業。同年、野村證券に入社、海外投資顧問室に配属。スタンフォード大学で経営修士号(MBA)取得後、86年に野村證券NY支店に配属。91年、ゴールドマン・サックス証券東京支店に転職。その後モルガン・スタンレー証券、スパークス投資顧問を経て、98年、タワー投資顧問で基幹ファンド「タワーK1ファンド」をローンチ。2005年に発表された最後の高額納税者名簿(長者番付)で全国トップに躍り出る。23年、「タワーK1ファンド」の運用を終了し、退社。本書ははじめての著書である。

本書の要点

  • 要点
    1
    個人が株式投資をするならば、一般的な「大型株」よりも「割安小型株」への投資をすすめる。大多数が選ばない投資アイデアにこそ、成功へのチャンスが隠れている。
  • 要点
    2
    まずは「会社四季報」や企業ウェブページの情報をもとに、割安な株から20銘柄をピックアップして購入する。財務状況はもとより、将来の業績に大きな影響力をもつ経営者についてきちんとリサーチしよう。
  • 要点
    3
    日本企業は今後10年で、内需においても外需においても経営統合を進めていくしかない。

要約

市場は、あなたの味方です

少数派として常識を疑え

市場はいつも、少数意見の味方だ。大勢と同じ考えで取引をすれば誤った時に大損しやすく、少数派の考えで取引をすれば損失は少ない。たとえば大多数の投資家が「A社は今後5年間、年率10%増益するらしい」と強気の読みをしていたとする。そこで「いや、30%増益が可能ではないか?」と思っている少数派がいたとすれば、それは立派な投資アイデア(買いのアイデア)になるだろう。

株価には、その会社の将来性やビジネスチャンスの有無が織り込まれている。これは「大型株」になればなるほど見えにくくなるので、個人投資家としては、取引コストを抑えて安い売買手数料で投資できる割安小型株のほうが探しやすい。

少数派として「投資のアイデア」を探すには、まず「常識を疑う」ことだ。本書ではこのことを「counterintuitive」という単語でよく表現している。世間で当然と考えられていることと、現実が異なることは珍しくない。あらゆる情報には、発信者と受け手、双方のバイアスがかかっている。100%正しいと考えず、ほんの少しでも「そうではない確率」を念頭に置いておくべきだ。特に株式投資では、この「バイアス」の部分を自分で「補正」しながら判断するように心がけたい。少しでもネガティブなニュアンスで語られた情報には、「かなり重要な問題」が潜んでいるものだ。

投資判断の情報の価値
Khanchit Khirisutchalual/gettyimages

投資判断に関する情報を集めるためにお金をかける必要はない。「新NISAで200万円のうち半分はTOPIXのETF、残りは複数の日本の割安株」という個人投資を考えている程度であれば、情報を得るためにお金を支払うよりも、株を買う元手にまわすことが肝心である。

「役に立つ有料の情報源」を1つ挙げるとするなら「会社四季報」だ。オンラインのベーシックプランであれば低価格で済み、無料の有益な情報源である企業のホームページにもリンクされている。

機関投資家のように大型株に目配りする必要がある人なら、相場に埋め込まれたコンセンサスを読み解くために、メディアの情報やアナリストの意見をフォローしなくてはならない。多くの場合、たくさんの知識を蓄積している「市場」は合理的に動く。しかし、大型株にはその市場が「一瞬の隙」を見せることがあるし、割安小型株はそもそも隙だらけだ。企業をフォローしているアナリストの数が少ない企業の株券ほど、株価に動きがあったとしても出し抜かれずに済む。有限な時間の中でリサーチにかけるエネルギーは、勝ち筋に集中したほうがよい。

【必読ポイント!】 割安小型株の爆発的な破壊力

会社の価値を決める基準

「割安小型株」の“割安”は、会社の価値をどう決めるかに関係する。その価値の評価基準のうち代表格なのはPER(株価収益率)である。PERは株価を「一株あたり当期利益」で割った倍率を指す。一株あたりの利益が100円、株価が1000円とすれば、「PER=10倍」と評価されるということだ。発行済み株数が100株ならば時価総額は10万円、当期利益は1万円となる。このPERが低いほど、株は「割安」と呼ばれることが多い。

ただし、「将来の利益から割り出した適正なPER」だけでなく、会社のバランスシートを見て、資産や借金の状況を含めて検討しなければならない。特に、極端に低金利の日本の状況においてPERで企業価値を査定するには、財務構造を揃える必要があるのだ。

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要約公開日 2024.08.04
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