2023年、日本の株式市場は堅調に推移した。11月にはバブル崩壊後の最高値を更新し、終値は3万3817円をつけた。きっかけは著名投資家ウォーレン・バフェット氏が来日し、日本を代表する商社株群を買い増すと発表したことだ。
この動きは一時的なものではない。著者は、今の日本株市場の動きの背景には、日本企業の本質的な変化があると考えている。日本株市場は今後も上下しながら、長期的に見れば右肩上がりに上昇し続けるだろう。
日本企業が変わり始めたのは、2014年にさかのぼる。同年、金融庁が「スチュワードシップ・コード」、経済産業省が「伊藤レポート」、そして2015年には東京証券取引所が「コーポレートガバナンス・コード」を発表した。著者は当時、これら3つを「新・3本の矢」と呼び、上場企業と株式市場に対する本格的な改革促進であると考えた。
「伊藤レポート」の提言で特に重要だったのは「ROE(自己資本利益率)の目標水準8%」を宣言したことだ。ROEは「会社が株主から預かった資本からどれだけ効率よく純利益を生み出しているか」を表す指標で、「純利益÷自己資本」で計算できる。世界の投資家の間では、資本コスト(資本に対するリターン)の目安は平均7%であり、それを上回る8%に設定すれば投資家たちの納得が得られると考えたのだ。
金融庁の「スチュワードシップ・コード」では、機関投資家に対して投資先企業の経営のモニタリングを、東証の「コーポレートガバナンス・コード」では、上場企業に対して収益力や資本効率の目標提示などを求めている。経済産業省、金融庁、東証の三者による取り組みが、後の株価上昇の基盤をつくったのだ。
著者はよく海外の投資家に「日本の経営者は眠くて退屈」と言われたという。大企業トップに成長の気概のある人は見当たらず、いつもゴルフや健康の話ばかりしている。著者が運用する投資信託「ひふみ」が中小型株や成長株に傾斜していたのも、大企業の中に「投資したい」と思える会社がなかったからだ。
しかし、時代は変化した。経営にフォーカスする覚悟があり、成長志向を持つトップが増えてきたのだ。長期的な株価上昇が期待できる会社群が発生しつつあるのである。
その中の1つが味の素だ。著者は味の素の経営者と面談した際、深く感銘を受けた。味の素は「アミノサイエンスで人・社会・地球のWell-beingに貢献する」を掲げ、経営の改善と企業価値向上に取り組んでいる。著者は味の素に「本質的な真面目さ」「純粋さ」を感じたという。研究者である副社長はアミノ酸について熱弁をふるい、そこに割って入った社長も情熱的にアミノ酸について語り始めた。彼らはアミノ酸を心から愛し、アミノ酸の力を心から信じて邁進しているのである。
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