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評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

日本文学史に輝く『こころ』は、心理描写の名手として知られる夏目漱石が、人間の内面を抉り出した名作である。他の多くの漱石作品と同様に恋愛と三角関係を題材にしながら、本作では人間の醜さを執拗なまでに描き出す。普遍的な人間心理の精緻な描写からは、人間の本質や生きる意味への問いかけが感じられる。

作品は上中下の三部構成で、主人公の青年である「私」が「先生」と慕う人物との思い出を語った上下に、先生からの遺書である下が続く。明治の精神が色濃く反映されていることも本作の重要な特徴である。中の最後に、「私」の血縁上の父たる実父と、精神上の父というべき先生の二人の父が、明治の終わりに合わせたかのように死に向かう。封建的な明治の精神を体現する無知な父と、新しい時代の精神を合わせもった知識人たる先生は、たびたび比較されてきた。そして、危篤に陥った実父につきそう田舎で、東京に住む先生からの遺書を受け取ったとき、来るべき大正の時代に向かう青年「私」が選んだのは先生のもとへ向かうことだった。これは、明治とともに生きた漱石自身の思想の表れと見てよいだろう。

要約では原典の雰囲気に忠実に、物語の筋や重要な対比が含まれるよう努めたが、本書の魅力は限られた紙幅だけでは到底語りつくせない。要約であらすじをつかんだら、書籍へもぜひ手を伸ばしてもらいたい。教科書で読んだときとは一味違う、心が揺さぶられる読書体験ができるはずだ。

ライター画像
池田友美

著者

夏目漱石(なつめ そうせき)
1867(慶応3)年、江戸生まれ。帝国大学英文科卒。愛媛県松山中学校教師、第五高等学校教授を経て、1900年英国留学。帰国後、第一高等学校や東京帝国大学で教鞭をとる。1905年に『吾輩は猫である』、翌年には『坊っちゃん』『草枕』など話題作を次々に発表。1907年、文筆活動に専念するため、教職を辞し朝日新聞社に入社。『三四郎』『それから』『門』『行人』『こころ』『道草』等、日本文学史に残る数々の傑作を著す。『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し50歳で永眠。

本書の要点

  • 要点
    1
    暑中休暇を利用して滞在していた鎌倉で、私は先生と出会った。先生は学問があるのに仕事には就かず、毎月雑司ヶ谷の墓地を訪れる以外はあまり出かけることもない、静かな男であった。
  • 要点
    2
    謎めいた言動の多い先生に私は惹かれ、先生の思想に大いに影響を受ける。先生は時機が来たら自分の過去をすべて話すと私に約束する。
  • 要点
    3
    父が病に倒れたため、私は東京を離れ、田舎に帰る。明治天皇が崩御し、新しい時代に向かうなか、父は危篤状態に陥る。そこへ先生からの遺書が届き、私は東京行きの列車に飛び乗った。

要約

先生と私

先生との出会い
Moarave/gettyimages

私はその人を常に先生と呼んでいた。先生と出会った時、私はまだ若々しい書生であった。暑中休暇を利用して滞在していた鎌倉の掛茶屋で、先生を見つけ出した。先生に目を引かれたのは、先生が一人の西洋人を伴れていたからである。私は興味本位で先生たちが泳ぎにいくのを見つめ、翌日から先生に会った時間を見計らって掛茶屋に行くようになった。

あるとき先生が落とした眼鏡を私が拾い上げたことをきっかけに話しかけ、一緒に泳ぐようになった。話の流れで思わず「先生は?」と呼びかけたのが、先生という言葉の始まりである。

先生と懇意になったつもりの私は、避暑地を引き上げる時、先生のお宅に折々伺ってもよいかと尋ねた。先生の返事はごく単簡であった。こうしたことで私はよく先生から失望させられた。先生が亡くなった今日に思い返してみると、先生の冷淡な態度は、私を嫌ってのことではなく、自分は近づくほどの価値のない人間であるから止せという警告だったのだろう。

私は淋しい人間です

授業が始まって一カ月ばかりして先生の宅を訪ねると、先生は留守であった。二度目に行った時も先生は不在で、奥さんが毎月その日になると雑司ヶ谷にある墓に参る習慣なのだと教えてくれた。私は散歩がてら、雑司ヶ谷に行ってみる気になった。

墓地で声をかけると、先生は「どうして」と言葉をつまらせ表情を曇らせた。先生はその日、あすこにあるのは友達の墓だとだけ語った。

先生は学問があるが仕事には就かず、不可解な言動が多かった。私が月に二、三度、先生の宅へ行くようになったころ、先生は「私は淋しい人間です」と言い、なぜそうたびたび来るのかと問うた。先生は私の来るのを喜んでいるが、今に失望されて来訪がなくなるだろうともいった。

私の知る限り先生と奥さんとは仲の好い夫婦であったが、子供はいなかった。先生はそれを「天罰」のためだという。そして自分たち夫婦を「最も幸福に生れた人間の一対であるべきはず」という先生の言葉が私の耳には異様に響いた。

奥さんによると、先生の性質が段々こんなふうになってきたのは、先生とたいへん仲の好い友達が、大学卒業前に変死してからだという。

恋は罪悪ですよ
y-studio/gettyimages

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要約公開日 2024.07.31
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