登山と身体の科学

運動生理学から見た合理的な登山術
未読
登山と身体の科学
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運動生理学から見た合理的な登山術
未読
登山と身体の科学
出版社
出版日
2024年05月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

登山は非常に愛好者の多いスポーツである。本書によれば、日本で登山を愛好する人の人口は1000万人近く。世界でも登山好きが多い国である。健康増進や自然との触れ合いを求めて、毎年多くの人が登山を楽しんでいる。

しかし、登山には「苦しい」「つらい」といったイメージもつきまとう。そして、山での事故が報道されることも少なくない。登山をしたことがない人は特に、自分には山に上る体力があるのか、安全に上れるのかを判断するのは難しいはずだ。そうなると、登山に挑戦すること自体を諦めたくなってしまう。

本書では、登山経験が豊富で運動生理学の研究を行っている著者が、その経験を生かし、登山を楽しむためのエッセンスをまとめている。登山を安全に楽しむために重要なのは、登山の特徴を知り、自分の身体の仕組みを理解することだ。もちろん、登山に必要な栄養素や計画の方法も欠かせない。

本書は安全に登山する方法を解説するにあたって、運動生理学の考え方を導入する。「そもそも上り坂で早く歩くとなぜ疲れるのか」「水を飲まないとどうなるのか」といったことを学問的に解説し、身体の仕組みを知ることでトラブルのない登山を実現しようとするのだ。トラブルのない登山をしようとすることは、安全性を高めることであると同時に、健康づくりや体力づくりにも役に立つ。初心者から経験者まで、全ての登山愛好者にはもちろん、自分の身体を知って健康について考えたい人にも広くおすすめしたい一冊である。

著者

山本正嘉(やまもと まさよし)
1957年、横須賀市生まれ。東京大学教育学部で運動生理学を専攻。博士(教育学)。鹿屋体育大学名誉教授。体育大学で40年にわたり、アスリートの競技力向上を目的とした研究と実践を行うかたわらで、登山の分野でも同様の取り組みを行う。秩父宮記念山岳賞、日本山岳グランプリなどを受賞。登山歴は50年あまり。ヒマラヤやアンデスでの初登攀記録も持つ。おもな著書に『登山の運動生理学とトレーニング学』(東京新聞出版局)、『アスリート・コーチ・トレーナーのためのトレーニング科学』(市村出版)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    登山はウォーキングと比較して心拍数の増加が高く、運動時間が長い、いわゆる有酸素運動の1つである。
  • 要点
    2
    疲労せずに登山するには「主観強度」「心拍数」「登高速度」の指標が重要である。
  • 要点
    3
    登山中の疲労と強く関係があるのは水と炭水化物、そしてミネラルのうち塩分である。
  • 要点
    4
    登山中に多いトラブルは「筋肉痛」「膝の痛み」「下りで脚がガクガクする」と「上りでの息切れ」の4つだ。

要約

【必読ポイント!】 なぜ、登山は健康に良いのか

登山が心身に与える影響

登山と健康の関係について著者が調査した結果によると、中高年から登山を始めた250人あまりの人のうち、プラスの影響があったと回答した人は7割以上であった。病気の改善といった「体力・健康」や「精神面」の項目で多様な好影響がある様子がうかがえる。

一方、1割程度の人はマイナスの影響があったと回答している。その多くは膝と腰の痛みだ。しかし、登山を始めてから膝と腰の痛みが改善したと答えた人も多かったため、登山のやり方次第で良くも悪くもなると考えられる。マイナスの影響に留意して登山すれば、登山は心身の健康増進にとって優れた運動となる。

健康増進のためにウォーキングが推奨されることが多いが、登山はウォーキングよりも心拍数の増加が高く、運動時間が長い。代表的な有酸素運動であるウォーキングよりもさらに効果の高い運動だ。

筋や骨を鍛える効果
west/gettyimages

有酸素運動である登山には、肺や心臓の能力の改善や、肥満の予防・解消の効果が期待できる。さらに、筋や骨を強化する効果もある。

筋電図を用いて調べると、登山はウォーキングよりもかなり大きな筋力発揮をしている様子が観察できる。骨は、そこに付着している筋が大きな力を発揮するときや、骨自体が衝撃を受けたときなどに硬くなる性質がある。登山の荷物運びの負荷や下り道の衝撃は、骨の強化にも有効だ。

ただし、自分の体力や経験に見合わない強度の登山をいきなり行うと、負荷が高すぎて不健康な運動になってしまう。特に、心臓に疾患がある人は、心疾患を引き起こす可能性もあるため注意が必要だ。筋や骨も同様で、普段から活発な運動をしていない人が準備をせずに登山をすれば、怪我につながりかねない。

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要約公開日 2024.08.11
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