アート脳

未読
アート脳
出版社
出版日
2024年07月03日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

自分はアーティストだ、という自覚を持っている人はあまりいないだろう。アートに興味を持っている、という程度であればその数は少し増えるかもしれないが、大多数とは言えなさそうだ。特に日本のビジネスパーソンにとっては、アートとはあくまで仕事とは関係ない趣味の領域に属するものか、あるいは自分とまったく関係ない「よくわからないもの」という認識が主流かもしれない。教養という認識があればずいぶんいいほうだ。

しかし、アートが健康に良い影響を与え、しかもその効用が科学的に証明されつつあるとしたらどうだろうか?

グローバルなビジネスエリートにとって、アートに触れることは大きなトレンドになってきている。これまでのアート観はどちらかといえば教養として美を愛でるものだったが、たとえばジムに通ったりするのと同じように、自らを健康に保つために活用されつつあるのだ。

本書が定義するアートとは、緻密に書き込まれた絵画や、創造的な比喩を駆使した文学、あるいは人生を演奏に賭けた人たちによる荘厳なオーケストラだけではない。落書きやぬり絵、鼻歌のような身近なものでさえも、脳をはじめとした身体から周囲のコミュニティに至るまで、さまざまな影響を及ぼすことが論じられている。

これまであまりアートとかかわりがなかったという人は、これをきっかけにアートに触れ、今まさに見出されつつあるその新しい可能性を自らの心身で体験していただきたい。

ライター画像
池田明季哉

著者

スーザン・マグサメン(Susan Magsamen)
ジョンズ・ホプキンス大学医学部ペダーセン脳科学研究所の革新的な取り組みである、応用神経美学センターのインターナショナル・アーツ+マインド・ラボ(International Arts +Mind Lab、I AM ラボ)創設者で、現在は同施設のエグゼクティブ・ディレクターを務めている。脳科学とアートを融合し、アートや美的体験に対する反応が、神経生物学的に人間の可能性をどのように増幅するのか研究している。

アイビー・ロス(Ivy Ross)
2016年に正式に発足したグーグルのハードウェア部門でデザインを担当するバイス・プレジデント。2017年以来、ロスとそのチームはスマートフォンからスマートスピーカーに至るまで、消費者向けにさまざまなハードウェア製品を発表しており、デザインの分野で200以上の国際的な賞を受賞している。2019年には、『ファスト・カンパニー』誌の「ビジネスにおいて最もクリエイティブな100人」で9位に選ばれた。

本書の要点

  • 要点
    1
    アートが健康や幸福に大きな影響を与えることが、科学的に明らかになりつつある。
  • 要点
    2
    ここでいうアートにおいて、技術はあまり関係ない。落書きや鼻歌などでも効果がある。
  • 要点
    3
    トラウマのような心の傷からの回復には、アートが大きな役割を果たす。
  • 要点
    4
    アートは個人的な体験に留まらず、コミュニティ全体を健康にする力がある。公衆衛生の立場から、アートの導入が推奨されるようにさえなっている。

要約

人間を変えるアートの効用

「20分の落書き」が心を癒やす

「アートは変革をもたらす力強い存在」である。音楽、絵画、映画、演劇――アートに夢中になり、「自分のなかで何かが変化した」経験は、誰もが持っているだろう。アートは感動や喜びだけでなく、インスピレーションや知識、幸福感をも与えてくれる。

神経美学という分野の発展により、「脳とアートの関係を示す重要なエビデンス」が発見されている。アートや美学は生存に不可欠であり、人生を変える力をもつことが、科学的にわかってきているのだ。アートは「体とメンタルヘルスに関わる健康上の深刻な問題」に作用する。また学び続け、持続的な幸福を得るための手助けもしてくれる。

特定の香りを用いてつわりを軽減させたり、光源の調整によって活動量を増減させたり、特殊な音で不安を軽減させたりできる。運動をすることで脳内のセロトニンを増やし、コレステロールを下げられるように、たった20分程度の落書きやハミングでさえも、心身の状態を改善してくれる。

本書の見せるアートの可能性は理想や知識を語るだけではない。「具体的で根拠があり、実用的なもの」を示しているのだ。

【必読ポイント!】 部屋の照明、周囲の音、匂いが最高の美的経験になる

45分間の創作がストレスを減らす
Peshkova/gettyimages

「人生に行き詰まりを感じ、不安や極度の疲労に襲われること」は誰にでもある。ストレスの緩和は、食事や水を飲むこと、睡眠と同じくらい大切なことだ。アートや美はそのために大きな効果を発揮してくれる。アートの使い方を心得てさえいれば、自分の身体や感情の状態を変化させ、幸福感を高めることができるのだ。

アートというと、なにか特別な技能を持っていなければならないと思うかもしれないが、実際には全くそんなことはない。ドレクセル大学の特別研究機構副学部長でクリエイティブ・アーツセラピー学部准教授のギリジャ・カイマルの研究では、「わずか45分間アートの創作に取り組むだけ」で、ストレスホルモンであるコルチゾールが低下した。しかも、ほとんどの人において、スキルや経験の有無は関係がなかった。

この創作では評価や期待が一切なく、「参加者には制作過程そのものに集中し、安心して取り組むよう奨励」したという。簡単な材料を使って、出来栄えを気にせず取り組むことは、誰でも自宅で行えるとギリジャは強調している。

また、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで精神生物学と疫学を専門とするデイジー・ファンコートの研究によれば、「週に1回以上アート活動を行なうか、少なくとも年に1、2回は文化的な催しに参加する人」は、社会的・経済的なレベルにかかわらず、「そうでない人よりも生活の満足度が有意に高い」という。アートに関わる人は、「精神的苦痛が少なく、精神機能が優れ、生活の質が高いこと」が判明しているのだ。

私たちの内部ではつねに、「内外の刺激に対する複雑な神経化学反応」としての実に多様な感情が渦巻いている。それは、心臓の鼓動や呼吸と同じくらい確かなものであり、押しとどめることは生理学的に難しい。アートは感覚的入力信号として神経回路に強く働きかけ、感情の処理を可能にする。「喜びや満足感と言ったポジティブな感情を増幅させ、全般的な幸福感を導く力になる」のだ。

鼻歌だけでリラックスできる
metamorworks/gettyimages

美的経験の中でも、音は特にストレスに対して有効だ。

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要約公開日 2024.10.08
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