Googleは2012年3月にそれまでのGoogleの各サービスが持っていたデータを一本化し、ユーザーを1つのIDに集約できるようにした。そのせいで、現在ではそれまでと違って、個人が「YouTube」で視聴した動画まで、検索結果に影響するようになっている。Amazonは、1つのIDに顧客の購買履歴や閲覧履歴を蓄積し、「レコメンドエンジン」により購入者の趣味・嗜好に合わせた商品紹介を行っている。
「1人のユーザーに関するデータが各サービス間をまたがって共有され、ユーザーの利便性向上につなげる」という1顧客1IDの考え方は、CRM戦略を描くために避けては通れない課題である。
CRM(顧客関係管理)は、顧客マネジメントや顧客関係性マーケティングと捉える考え方もあるが、本書では企業が顧客に焦点を当てて行なう経営戦略として捉えている。
店舗で会員証を発行し、購入金額に応じ特典を付与する施策など、古くから顧客の識別や顧客との関係性構築は行われてきたが、CRM戦略の取り組みが始まったのは、1990年代半ば頃、営業担当者の活動をITシステムで支援するSFA(Sales Force Automation)導入からだった。その後、顧客会員化のムーブメントやインターネットによる電子取引の普及により、クレジットカードやポイントカードなどが、顧客の属性や購買履歴を管理する仕組みとして機能するようになった。また、コールセンターなどの顧客接点の多様化、顧客接点から得られるデータの管理も重要な意味を持つようになった。現在では、データを一元的に管理・分析して活用する取り組みは、企業活動に不可欠な要素となっており、技術的にも顧客情報の蓄積・分析・提案が自動化されるまで進化している。
これまで、情報発信の主体は「企業」であり、新聞・雑誌・テレビ・ラジオのマス4媒体やインターネットなどを介して、生活者・消費者に一方的に情報を発信してきた。だが、生活者・消費者がFacebookやTwitter、LINEなどのソーシャルメディアを通じ価値ある情報交換を行うことで、情報発信の主導権は「生活者・消費者」に移行し、企業の一方的な情報発信は簡単には受容されなくなった。こうした状況はマーケティングのあり方そのものを大きく変えるパラダイムシフトだといえる。顧客の声に耳を傾ける「価値共創マーケティング」はその産物といってよいであろう。
一方で企業は、ソーシャルメディアにおける顧客の能動的な消費活動により、顧客の趣味・嗜好や交友関係といったプロファイル情報、WEBマーケティング施策への反応状況、POSや電子マネーによる購買履歴などを取得できるようになった。つまり、ライフスタイルの変化に伴って多様化する顧客のニーズを捉えることや、潜在的な見込顧客を高い精度で捉えることが可能になったのだ。
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