物理学者のすごい日常

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出版社
集英社インターナショナル

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出版日
2024年06月12日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

雨の中、濡れずに歩く方法はないだろうか。傘を忘れた日、誰もが一度はこんなふうに考えたことがあるはずだ。本書の著者であり、物理学者の橋本幸士教授は、この問いに物理学の知識を駆使して大真面目に挑んでいる。垂直に落下している雨粒の軌道を避けながら歩くには、体を一定の方向に傾けておかなければならない。雨の落下速度や歩く速度、体の傾きを計算して雨の中を歩き出した著者は、どれくらい濡れずに目的地に到着することができたのか。この実験の結末は、ぜひ要約本文でご確認を。

著者にかかれば、日常生活のすべては「物理学的思考法」の対象になってしまう。雨に濡れない方法の他にも、碁盤の目のような京都の街で陽にあたらずに歩ける時間帯、桃を平等に切り分ける方法など、身近な問題に物理学の知識を使って答えを出そうとしている。

そんな著者は物理学の啓蒙にも積極的だ。映画『GODZILLA 星を喰う者』への協力を通して、科学者が社会的に果たすべき責任についても考えるようになり、活動の舞台を演劇や音楽とのコラボレーションにも広げている。物理学を遠い存在に感じている人にこそ、本書を楽しんでもらいたい。クスッと笑えるエピソードを通じて、物理学の面白さを身近に感じることができる。「橋本先生だったらどんなふうに考えるかな」と想像してみるだけで、いつもの毎日の見え方がちょっとだけ変わってしまうはずだ。

ライター画像
池田友美

著者

橋本幸士(はしもと こうじ)
京都大学大学院理学研究科教授。「学習物理学」領域代表。一九七三年生まれ、大阪育ち。専門は素粒子論(弦理論)。京都大学で理学博士を取得後、カリフォルニア大学サンタバーバラ校理論物理学研究所、東京大学、理化学研究所、大阪大学を経て現職。著書に「物理学者のすごい思考法』(インターナショナル新書)など。映画『シン・ウルトラマン」の物理学監修、『オッペンハイマー」の字幕監修、音楽家・身体パフォーマーとの共同作品など、物理学とメディアや芸術を融合する試みも行っている。

本書の要点

  • 要点
    1
    「学習物理学」は、著者が領域代表を務める新しい学問分野だ。同じ気持ちを持った研究者が集まって新しいアイデアを磨き合うところに、新しい学問が生まれる。
  • 要点
    2
    雨の落下速度、歩く速度、体の傾け具合を計算し、雨粒の軌道を避けて歩くことができれば、理論上は雨に濡れずに歩くことができるはずだ。
  • 要点
    3
    素粒子物理学は宇宙の謎を解き明かし、原爆の原理を生んだ分野でもある。その系譜の研究者として、物理学の啓蒙を行うことは、科学者としての社会的責任を果たすことにもなるだろう。

要約

「学習物理学」って何?

走りまくる物理学者たち

2024年、著者は上智大学で開催された「学習物理学討論会」に参加していた。「学習物理学」というのは著者の造語で、機械学習と物理学を融合する新しい学術分野であり、AI(人工知能)と物理学を融合する試みだともいえる。これがめっぽう面白く、国からも学術変革領域研究と認められて予算がつき、著者が領域代表を務めている。科学にも社会にも、新しい時代が同時に来たのだ。それはすごく、面白い。

日本物理学会の年次大会には、全国から数千人の物理学者が集まり、各分野の講演を聞くスタイルで開催されている。6年前の学会で、ある講演会場から他の講演会場へと走っていたとき、同じタイミングで同じ経路を走っている、知らない物理学者が何人もいることに気がついた。そのときの著者は、機械学習を物理学に適用したという主旨の講演ばかりをめぐっていた。そこで、同じように会場を走っている人にこう話しかけた。「機械学習の講演を聴きに走っているんですよね?」

その夜、走った仲間が飲み屋に集結した。こうして「学習物理学」のコア若手メンバーになる人たちと知り合ったのである。皆、AIが物理学に革新をもたらす可能性を感じつつも、情報がなくて困っていた。そこで、コミュニティを作って情報交換をすることになったのが、新学問の誕生のきっかけだ。

宇宙は、ニューラルネットワークと同じなのかもしれない
Dragon Claws/gettyimages

著者にとっての学習物理学の始まりは、AIを学びたくなって企画した研究会だった。甘利俊一先生などを招いて、詳しくAIの動作機構を学んでいたとき、ある講演者が見せたオートエンコーダと呼ばれる機械学習モデルの図が、著者の研究するブラックホールの図にそっくりに見えた。脳の機能を模したニューラルネットワークによるAIが、ブラックホールにそっくりに見える。周辺の研究を調べて学んでいくと、宇宙とAIが数学で繋がるかもしれないと感じられた。

こうしたアイデアを、研究会に来ていた若手の研究者に話し、数ヵ月かけて重力理論とAIを橋渡しする論文を完成させた。重力と人間の認知が関係しているかもしれないという話は、実は著者が学生の頃にゼミの先生から聞いたことがあった。それから25年の歳月を経て、ようやくそれを世界に広げることができた。

学問というのは、作ろうと思って作れるものではない。また、一人の学者で作られるものでもない。同じ気持ちを持った研究者が集まって新しいアイデアを磨き合うところに、新しい学問が生まれるのだ。

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要約公開日 2024.12.21
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