静かな退職という働き方
静かな退職という働き方
静かな退職という働き方
出版社
出版日
2025年03月12日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「言われた仕事はやるが、会社への過剰な奉仕はしない」「顧客との面倒な付き合いは断る」「急ぎの仕事が発生しても残業はしない」。こうした最低限の業務しかしない状態を、「静かな退職」と呼ぶ。これはアメリカのキャリアコーチが発信した「Quiet Quitting」の和訳である。なぜ、「静かな退職」が日本でも起きているのか。

さて、「静かな退職」について、読者のみなさまはどう感じるだろうか。中には、「会社へのコミットメントが低い社員が増えると、生産性も下がってしまう」と危機感を覚えた方もいるかもしれない。一方で、欧州やアメリカでは、一部のエリート層を除くと「残業をせずに最低限求められた業務を遂行する」のが、ごく当たり前の光景であることが明らかになる。むしろ、「手を抜けば抜くほど、労働生産性は上がる」といった意外な真実が浮かび上がってくる。

雇用ジャーナリストの著者は、日本で「静かな退職」が生まれた社会の構造変化を、豊富なデータをもとに解説する。さらには「静かな退職」を選ぶ人に向けた働き方の指針やライフプランを提案し、管理職・企業側はどのように対処すればよいかを指南してくれる。読後には、この新たな働き方が企業経営の改善につながる「魔法の杖」となる可能性を見出せるだろう(抜本的な改革が必要そうではあるが)。

「静かな退職」を批判的に捉えていた方にこそおすすめしたい一冊だ。働き方と雇用の課題の本質があぶり出され、新たな視点が得られるのではないだろうか。

ライター画像
松尾美里

著者

海老原嗣生(えびはら つぐお)
サッチモ代表社員。大正大学表現学部客員教授。1964年東京生まれ。 大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画・推進、 人事制度設計などに携わる。その後、リクルートワークス研究所にて雑誌「Works」編集長を務め、2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。 『エンゼルバンク――ドラゴン桜外伝』(「モーニング」連載、テレビ朝日系でドラマ化)の主人公、海老沢康生のモデルでもある。人材・経営誌「HRmics」編集長、リクルートキャリアェロー(特別研究員)。

本書の要点

  • 要点
    1
    「静かな退職」とは、最低限の業務をこなしつつ、過度な奉仕を避ける働き方である。日本における静かな退職の広がりには、女性の社会進出や柔軟な働き方の普及が影響している。
  • 要点
    2
    静かな退職を成功させるためには、職場での良好な印象を保ちつつ、副業の基盤を築くことが重要となる。
  • 要点
    3
    静かな退職者は、企業の経営環境を改善し、人材管理を進化させる存在である。

要約

日本にはなぜ「忙しい毎日」が蔓延るのか

日本で増えつつある「静かな退職」

出世を目指して意欲的に働くことはなく、最低限やるべき業務をやるだけの状態を、「静かな退職」と呼ぶ。これはアメリカのキャリアコーチが発信した「Quiet Quitting」の和訳である。会社をやめる気はないが仕事の意義を見出していないので、「退職」とほぼ同義だという。

かつて「エコノミックアニマル」と揶揄された日本のビジネス界にも、この新たな労働観が浸透しつつある。Job総研による2023年の調査では、全体の72.2%が「仕事よりもプライベートを重視する」という結果が出た。

言われた仕事はやるが、会社に過剰な奉仕はしない。不合理な要望は受け入れず残業は最小限にとどめる――。そんな社員に対し、旧来の働き方に慣れたミドル層は不満を抱いている。

本書はこうした軋轢を解消するための、「静かな退職の取り扱いガイドブック」だ。静かな退職を望む個人と、その周囲の上司や企業双方に、静かな退職をソフトランディングさせる方法を解説する。

手を抜けば抜くほど「労働生産性」は上がる
Milos-Muller/gettyimages

まずは欧州の働き方に目を向ける。欧州の標準労働は、日本ならクビになるレベルといえる。たとえば、スペインからアンドラ公国(フランスとスペインの国境にある)に行くバスの運転手が定時になると乗客を降ろした事例がある。日本のドライバーなら目的地まで行くだろう。

欧州では定時退社を優先するため、労働生産性が高くなる。さらに、乗客たちがタクシーなどを利用するため、新たな消費=生産が生まれ、経済活動の活性化にもつながる。このように、手を抜けば抜くほど「労働生産性」は上がるのだ。

日本では「忙しい毎日」を送る人が多く、業績に直接関係のない業務に時間を割いている。

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要約公開日 2025.03.26
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