早合点認知症
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早合点認知症
出版社
サンマーク出版

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出版日
2025年01月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「認知症にだけはなりたくない」

認知症について語るときに、こんなふうに言われることは少なくない。人生100年時代には、誰もが認知症の当事者やその家族になる可能性がある。しかし、自分は認知症と無縁でいたいというのが多くの人の本音だろう。認知症になるとすべて忘れてしまう、自分が自分でなくなってしまうというイメージがその背景にあるのは間違いない。

多くの人が抱くこのような認知症観に対して、本書の著者である認知症専門医の内田直樹氏は認知症のリアルとは大きくズレていると指摘する。メディアで扱われる認知症は、アルツハイマー型認知症の重症例に偏っている。実際の認知症には多様な症状があり、適切な治療を受けながら、その人らしい生活を続けている人もいる。ところが、認知症に対する偏見や誤解があるために、過大な心配をしている人は少なくない。それを著者は「早合点認知症」と呼ぶことにした。

本書を読むと、認知症を過度に恐れる必要はないのだということがよくわかる。認知症になったからといって、いきなり急激な変化が訪れるわけではなく、治療可能な認知症もある。むしろ気をつけるべきなのは、認知症に対する知識不足のために、無意味な予防を試みたり、治療可能な認知症を見逃して不適切な対応をしたりすることだ。誰もが無縁ではいられないからこそ、認知症の現実を知り、本当に効果のある予防や備えに本書を役立ててもらいたい。

ライター画像
池田友美

著者

内田直樹(うちだ なおき)
認知症専門医。医療法人すずらん会たろうクリニック院長、精神科医、医学博士。1978年長崎県南島原市生まれ。2003年琉球大学医学部医学科卒業。2010年より福岡大学医学部精神医学教室講師。福岡大学病院で医局長、外来医長を務めたのち、2015年より現職。
福岡市を認知症フレンドリーなまちとする取り組みも行っている。日本老年精神医学会専門医・指導医。日本在医療連合学会専門医・指導医。編著に『認知症プライマリケアまるごとガイド』(中央法規)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    多くの人は、アルツハイマー型認知症の重症例を認知症全体のイメージとして捉えてしまっている。実際の認知症は多様なものであり、治療可能なものも含まれている。
  • 要点
    2
    認知症の診断で重要なのは、治療可能な認知症の可能性を早期に見極め、適切に対処することだ。
  • 要点
    3
    真の自立とは、膨大なものに頼りながら、何にも依存していないと感じていられる状態だ。「私は認知症になっても自立した生活を続けられる」と感じていられる社会の実現が求められる。

要約

【必読ポイント!】 認知症はこう「誤解」されている

「もの忘れ=認知症」という誤解
tadamichi/gettyimages

「認知症」は、じつは病名ではない。これは、後天的な脳の障害によって、脳の機能が持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった「状態」を指す言葉だ。認知症の原因となる脳の障害を引き起こす病気は、70以上あることがわかっている。認知症の症状はひとつではない。認知症にはグラデーションがあり、多様で多彩な状態を指す言葉なのだ。

しかし、多くの人の中には「ザ・認知症」という固定のイメージがある。その一因は、日本の報道でアルツハイマー型認知症の重症例ばかりが取り上げられることにある。そのため、アルツハイマー型認知症の代表的な症状である「もの忘れ」が、認知症の症状だと誤解されることも多い。

アルツハイマー型認知症は、全認知症のうち6〜7割と、たしかに多い。しかし、70以上ある認知症の原因となる病気のひとつでしかない。「もの忘れ」だけが認知症の症状だと思っていると、他のタイプの認知症を見逃すリスクがある。また、もの忘れがあったら、必ず認知症だというわけでもない。

加齢によるもの忘れと、認知症のもの忘れには違いがある。加齢に伴って増えるもの忘れは、脳の記憶の棚にしまったエピソードをさっと取り出せなくなる、「うまく思い出せない」というタイプのものだ。一方、認知症のもの忘れでは、そもそもエピソードを覚えることができなくなる。つまり、忘れているのではなく、そもそも覚えていないのだ。

もし、自分でもの忘れがたび重なっていると感じたら、専門外来を受診してみてもいいだろう。早期診断は、認知症治療にとても重要なことだ。

「年のせいだから仕方ない」と考える勘違い

認知症の最大のリスク因子は「年をとること」だとされているが、問題なのは「年齢」ではなく「老化が進むこと」だ。訪問診療をしている著者は、年齢と老化はイコールではないことを実感している。年齢は若くても認知症が進行している人がいる一方で、100歳を超えても老化を感じさせない人もいるのだ。

先述のように、認知症とは状態であり、「暮らしの障害」だ。こうした状態を評価する国際的な尺度にIADL(手段的日常生活動作)というものがある。これらをチェックして合計点数が高いほど、暮らしの障害はないと考える。この数値が低下したら、認知症の状態になったことを疑ったほうがいい。

認知症の状態になる人が多い80代には、自分でできないことが増える人が多く、本人も周囲も「年だから仕方ない」と考えがちだ。しかし、そう考えてあきらめることで、結果として認知症の進行を速めてしまう危険性がある。

著者の訪問診療では、「愛情」ゆえに家族が身の回りの世話を代わりに行うことで、本人のIADLや認知機能が急激に失われているかもしれないと感じられることがある。老化や認知症の進行スピードには環境も影響する。これからの課題として意識しなければならないのは、助けない(支えない)でもなく、助けすぎ(支えすぎ)でもない、「ほどよい」サポートだ。

「早合点認知症」を増やさない!
Chinnapong/gettyimages

認知症に対して偏見や誤解があるために、過大な心配をしている人がいる。本書はそれを「早合点認知症」と呼んでいる。

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要約公開日 2025.04.06
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