はじめてのスピノザ
はじめてのスピノザ
自由へのエチカ
NEW
はじめてのスピノザ
出版社
出版日
2020年11月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

17世紀オランダの哲学者スピノザは、生前にわずか2冊の本しか出版していないにもかかわらず、300年以上を経った今なお、多くの思想家や哲学者に影響を与え続けている。その思想の核となるのが、彼の死後に発表された主著『エチカ』だ。『エチカ』は難解な書物として知られているが、その内容をやさしい言葉で解説したのが、本書『はじめてのスピノザ』である。

著者の國分功一郎氏は、20年以上にわたりスピノザを研究してきた哲学者であり、NHK「100分de名著」で『エチカ』が取り上げられた際にはゲスト講師を務めている。本書は、その放送内容に新たな章を加えて、増補改訂版として出版された。

本書では、『エチカ』を軸に据えながら、スピノザの哲学を現代の視点から読み直し、自由、善悪、真理といった普遍的なテーマを探求している。明快な解説によって、『エチカ』の「難解」というイメージは取り払われ、スピノザ哲学の重要な概念が初心者にもわかりやすく提示されている。読者はスピノザの思考の流れを追体験しながら、自らの思索を深めることができるだろう。

自由とは何か、善悪とは何か、人はどのようにして真理を知るのか――。本書とともに、哲学者の思索の軌跡をたどりながら、根源的な問いに向き合ってみてはいかがだろうか。

ライター画像
池田友美

著者

國分功一郎(こくぶん こういちろう)
1974年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授。専門は、哲学・現代思想。著書に、『スピノザの方法』(みすず書房)、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社、第2回紀伊國屋じんぶん大賞受賞、増補新版:太田出版)、『ドゥルーズの哲学原理』(岩波現代全書)、『来るべき民主主義』(幻冬舎新書)、『近代政治哲学』(ちくま新書)、『中動態の世界』(医学書院、第16回小林秀雄賞受賞)、『原子力時代における哲学』(晶文社)など。訳書に、ジャック・デリダ『マルクスと息子たち』(岩波書店)、ジル・ドゥルーズ『カントの批判哲学』(ちくま学芸文庫)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    スピノザは、物事それ自体に善悪はなく、組み合わせの問題であると考えた。人の「活動能力を増大」させるのであれば、それはその人にとって善いものだということだ。
  • 要点
    2
    古代ギリシア哲学は、本質とは「形」であるととらえていたが、スピノザは「ある傾向を持った力」こそが本質であると考えた。
  • 要点
    3
    自由とは制約のない状態ではなく、与えられた条件の中で自らの力を最大限に発揮することである。
  • 要点
    4
    歴史の転換点であった17世紀のスピノザの思想は、「選択されなかったもう一つの近代の思想」と解釈することができる。

要約

組み合わせとしての善悪

『エチカ』とはどのような本か
francescoch/gettyimages

「エチカ」とは、ラテン語で「倫理学」を意味する言葉である。簡単に言えば、どのように生きるかを考える学問のことだ。

『エチカ』という本は、少し変わった形式で書かれている。数学の教科書のように、まず用語の「定義」が示され、次に「公理」と呼ばれる論述のルールが続き、その後もいくつもの「定理」とその「証明」が並び、さらに「備考」がついて……という形式が繰り返される。読者はまず、この形式に驚くことだろう。

『エチカ』は全5部で構成されているが、國分氏は第4部「人間の隷属とあるいは感情の力について」から読みはじめることをおすすめしている。ここは『エチカ』全体の序文として読むことができるようになっていて、全体像をつかむ手がかりになるからだ。

第1部では神が詳しく定義され、第2部では物理学的・生理学的な視点から人間の「精神」と「身体」について論じられる。続く第3部では、「感情」の本質に迫り、それを引き継ぐのが第4部である。この第4部の序文では、善悪の概念がスピノザ独自のやり方で定義されている。

スピノザはまず、「完全」「不完全」という概念を次のような例で説明する。建築途中の家を見て不完全だと思うのは、私たちが家について「一般観念」を持っていて、それと比較しているからだ。自分の持っている一般観念と一致すれば完全だと感じるし、一致しなければ不完全だと感じる。しかし、この一般観念というのは偏った見方にすぎない。スピノザはそう指摘し、すべての個体はそれぞれに完全なのだと主張した。ある個体が不完全に見えるのは、単に一般観念という「偏見」と比較しているからなのだ。

自然界に「完全/不完全」という区分は本来存在しない。それと同じように「善/悪」という区分も自然界には存在しないとスピノザは考えた。スピノザによれば、善悪には「組み合わせ」しかない。例えば、「憂鬱の人」と音楽が組み合わされて、その人に力が湧いてきたら、音楽は善いものである。「悲傷の人」が悲しみに浸るのに音楽を邪魔だと感じたら、その人にとって音楽は悪いものである。「聾者」にとっては、音楽は善くも悪くもない。

音楽に限らず、自然界にはそれ自体で善いものも悪いものもない。うまく組み合わさるものと組み合わさらないものがあるだけだ。

どのように生きるかという問い

スピノザは『エチカ』でどのように生きるべきかを考えようとした。しかし、自然の中に善悪がないというスピノザの考え方からいえば、どんな生き方をしても変わらないということにならないだろうか。どんな生き方が「善い」といえるのだろうか。

これについても、スピノザは組み合わせで考えた。先の例で、「憂鬱の人」は音楽を聴いて心が癒され、本来持っていた力を取り戻すことができた。スピノザはこうしたことを「活動能力が高まる」と表現し、うまく組み合わさって「活動能力を増大」させるものを善いものと定義した。

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要約公開日 2025.04.26
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