著者は、人間の心が、経営にいかに大きな影響を及ぼすかを実感している。企業には、資本金の額や財務の健全性、技術開発力など数字で表せる「見える部分」と、トップの信念や従業員の心を反映した社風などの「見えざる部分」とがある。著者は後者の方が経営により大きな影響力を及ぼすと考えている。学歴も人材も資金力もない状態で、京セラが驚異的な発展を遂げることができたのは、見えざる部分の影響としか考えられない。
人間は、心に描いたことや意識したことによって左右され、心に描いた通りの現象が現れる。とはいえ、「こうありたい」と願う程度ではなかなか実現しない。心に描いたことが実現されるには、二つの条件が必要だ。一つは、強烈で持続した思いをもっていること。本人が一点の曇りもなく心の底から思わなければ、実現するわけがない。二つ目の条件は、「美しい思いを描くこと」である。たとえ「どうしても成功したい」という強烈な思いがあっても、それが「自分自身のエゴから生まれた思い」だった場合には、一時的な成功を収めても、永続的な成功にはつながらないのである。
この観点に立つと、企業のトップが常々心に描いているものが、会社に大きな影響を及ぼしていると言える。そして、借りものではないトップ自身の思いこそが「経営理念」となる。その理念を常に社員に話すことで、社員みんなに理念が浸透して社風がつくられる。トップから社員までの心の集積が、その会社の運命を決めるのだと考えている。
経営者には哲学、つまりレベルの高い人生観が不可欠である。なぜなら、経営者は企業経営のあらゆる機会に、物事の判断を迫られるからだ。
京セラの前身である京都セラミックを起業した当時、著者が判断基準としたのは、小さい頃に両親から教えられたプリミティブな倫理観だった。この倫理観に裏打ちされた判断基準が、「人間として正しいこと」だったからこそ、今日まで京セラは発展したのだろう。経営者が物事の判断を下すときは、「人間として正しい道」を基準にしなくてはいけない。
中小企業が発展し続けるケースは決して多くない。途中で潰れる理由は主に次の2つである。一つは、会社を律する倫理観の欠如だ。倫理観を身につけていない人がリーダーになると、不祥事が起こり始める。会社を律すべき判断基準を全社員に浸透させていないために、社内に混乱が生じ、伸び悩みに陥ってしまうのだ。
もう一つは、経営管理システムの欠落である。多くの経営者は、「売り上げを増やせば経費も増える」と考えている。しかし、著者は「売り上げを最大化し、経費を最小化すること」が経営に必要だと考える。それを実現させるべく、工場や営業の現場など、全部門の採算がわかるシステム、「アメーバ経営」をつくりあげた。会社の規模が大きくなっても、各部門の採算状況が詳細かつリアルタイムに見えるので、どの事業部のどこが問題になっているかを短時間で把握することができる。社員一人ひとりが経営者と同じ意識で仕事に取り組めるシステムの構築が、京セラの発展につながった。
人は成功するとついうぬぼれて、自分に才能があるから成功したと勘違いし、才能を私物化する。
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