スマートフォン向けの広告配信事業を手がけるノボットを創業し、2011年にKDDIに売却した小林清剛氏。彼にとってノボットは3度目に立ち上げた会社であった。
大学時代に仕事の楽しさに気づき、最初は友人の誘いでコーヒーの輸入と通販の会社を始めた小林氏は、2つ目の会社を立ち上げ、日本一の品揃えを誇るコーヒー通販サイトをつくった。しかし、構造的に儲からない事業モデルであることに気づけずに失敗し、大学卒業時には借金を負うことになってしまう。それでも彼は起業を諦めることなく、数百万の借金を完済するまでの約1年半もの間、次の会社を始めるためのアイデアを100個以上考えていた。起業家を続けているのは、仲間と一緒に創った事業が価値を生み出し、それに対して誰かが喜んでくれるというサイクルを生み出すことが楽しいからだという。
彼はこう言う。「事業にはこうしたら必ずうまくいくというセオリーは存在しない。起業家が成長するための最良の方法は、失敗経験から多くを学んで、失敗を繰り返さないようにレベルアップしていくことだ。」現に1社目と2社目で失敗した理由を、100個程度書き出して定期的に見直し、今ではその80%以上を改善している。
起業家にとって大切なことは、3年、5年、10年後の未来に対して、自分が誰よりも信じられる強いビジョンを持つことだと小林氏は説く。周囲に反対されても、自分の信じる未来に対して誰よりも早くリスクを取ることである。小林氏の場合はスマートフォンの成長への確信であった。
意思決定において重要なのは、「直接関係者からヒアリングして得られる情報」である。ガラケー全盛だった2009年当時に、スマートフォン向けの広告が伸びるという可能性に気づくことができたのは、大手メーカー勤務の友人から得た「膨大なスマートフォンの部品が世界中に出荷されている」という情報のおかげだった。
また、意思決定のための情報収集は重要だが、起業家にとって、リスクを取る意思決定を早く行うことはさらに重要だ。最後の最後には経営者自身が決めなければならない。
ノボットをKDDIに売却した一番の理由は、スマートフォン広告事業では日本でGoogleに勝てないと思ったからだ。当時は設立2、3年で会社を売却するケースは例外的だったが、アジアで一番を狙うためには、大きな資本があり、かつアジアに積極的に展開する会社と一緒になるほうがよいと判断した。
彼は2013年末から米国で起業をしている。米国では、失敗しても何度も挑戦する起業家がたくさんいる。「一度失敗すると立ち直れない」という日本のカルチャーを変えていくには、起業家だけでなく投資家の意識の変化も必要だ。日本では、失敗の評価によっては失敗した起業家に再び投資するという投資家はほとんどいないのが実情だからである。
日本と米国の市場の環境の差は非常に大きい。グローバルな製品をつくるには、日本人向けにスタートするのではなく、英語で製品をつくり、共同創業者や従業員に他国のメンバーを入れるほうが良い。
3,400冊以上の要約が楽しめる