多くの人が、物事を本質から考えることができず、「思考のクセ」によって表層的に考えてしまっている。はじめに、著者は、ありがちな思考のクセを下記のように9つに分けて紹介している。
①裏返しの結論のクセ
②一般解で満足してしまうクセ
③フレームワークに依存してしまうクセ
④カテゴリー適応のクセ
⑤キーワードで思考停止に陥るクセ
⑥初期仮説に固執してしまうクセ
⑦考えている目的を失ってしまうクセ
⑧プロセス偏重のクセ
⑨主体性を喪失するクセ
まず、初歩的で、思考の入り口にも立てていないというクセの一つが、⑧のプロセス偏重のクセだ。例えば「顧客アンケートを実施すれば、顧客ニーズがどこにあるかということへの答えが出る」といったような、プロセスを回すことだけにとらわれている症状だ。
一方、努力して勉強すればするほど思考が深まらないというジレンマに陥る深刻なクセもある。例えば、SWOT分析などを使って情報を整理するところまでで思考が止まってしまうという③フレームワークに依存してしまうクセ、あるいは「差別化」「コア・コンピタンス」「CRM」などのキーワードを持ち出した時点で抽象的なレベルで思考が止まってしまう、④カテゴリー適応のクセなどの症状だ。著者はこれを「カナヅチを持てばすべて釘に見える」と表現している。ツールを使うこと自体は良いが、それだけで自動的に答えが導けるものではない。常に「So what?(だから何なのか)」を意識することが重要になる。
現象のみを見て、対処療法的にその症状を抑えようとすると失敗する。例えば、業績が下がった際に「コスト一律30%カット」などとするのは表層的な問題に囚われ、わかりやすい目標を掲げてしまったスジの悪い答えと言える。「一律」にカットすることで、将来に必要な研究開発や営業力まで犠牲にしてしまいかねない。表層や枝葉末節に囚われず、本質から考えることが求められる。
著者は、インプットとアウトプットの間にあるブラックボックスこそが本質であるという。現象の裏側には、それを引き起こすモデルとダイナミズムが必ず存在する。そのモデルとダイナミズムの結果として、現象が目の前に現れているのだ。
そこで、まず現象の要素の因果関係を概念図で表し(モデル)、それが今度どのように変化していくか(ダイナミズム)を見ていく。そして、部署ごとなど分解した細かいパーツを見るのではなく、全体を俯瞰し、モデルを変えることで結果として生じている問題を解決する。複雑な事象ほどシンプルに捉えることが重要だ。要素ごとに細かく分解していくと、こんどはその要素の多さに頭を抱えることになるからだ。
わかりやすい例として、広告費がエスカレートするモデルを説明しよう。A社が広告宣伝費を拡大してシェアを伸ばすと、今度はB社も広告宣伝費を拡大して失ったシェアを取り戻そうとする。そうするとA社はさらに広告費を注ぎ込む。これをモデルとして図に表すと、お互いに広告費がどこまでもエスカレートしていくループの構造になる。それを見て、この広告合戦に乗ることは得策だろうかと考えると、お互いが疲弊しきる前に、この構造(モデル)自体を変える必要があると気づくだろう。つまり、根本から問題を解決するとは、モデルを変えることなのだ。
本質から考えるための一連のステップを、一つずつ見ていこう。まず、現象の裏にひそむモデルを描き出すことが必要になる。
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