ペンタゴンには「呼吸を制するもの、勝負を制す」という言葉がある。呼吸は短時間で高いパフォーマンスを発揮するのに「最適な」心身状態をつくる大きな味方になってくれるのだ。
ペンタゴンが、正しく深い呼吸を重視する理由は次の二つである。一つ目は、血圧や心拍数の正常化、疲労回復、活力増加など、身体機能を健全にする効果があるためだ。そして二つ目は、メンタル面での安定化と集中力の増加をもたらすためである。人はストレスを抱えると、つい肩や胸だけで浅い呼吸をしてしまい、脳の酸素が不足し、心身への悪循環を生むおそれがある。呼吸の乱れは精神の乱れと呼応するのだ。
ペンタゴンの推奨する理想的な呼吸は、1分間に8回から10回の呼吸回数と、肺容量を十分に使った深い「鼻呼吸」である。常に質のいい呼吸を行うことは、未来への簡単で確実な投資だといえる。
「人が自らの能力を最大に引き出し、発揮させた状態」を「ピーク・パフォーマンス」という。具体的には、適度な緊張感があり、落ち着きと高い集中力を保ち、自分自身を完全にコントロールできている状態を指している。この状態を「意図的」につくるために、ペンタゴンで用いられているのが、スナイパー(狙撃手)の戦術として生まれた「タクティカル・ブリージング」という特別な呼吸法だ。
スナイパーは、周囲に被害を与えることなく、ただ一発の銃弾を、標的に確実に打ち込まなければならない。こうした想像を絶する緊張状態で、人並み外れた高い集中力を発揮するには、心拍数を115から145にコントロールすることが重要だ。タクティカル・ブリージングを使えば、心拍数がこの値の中に収まり、「ピーク・パフォーマンス」を実現できるというわけだ。
タクティカル・ブリージングは、まず鼻から4秒息を吸って、4秒息を止める。その後、4秒かけて息を吐いて、吐き終わったら4秒息を止める。これを4~5回繰り返すというものだ。
例えば、絶対に失敗できないようなビジネスシーン、スポーツの試合、そしてリラックス状態から一転して勝負に臨まねばならない場面においても、この呼吸を用いて自分を整え、最適な臨戦態勢をとることができる。
戦場や災害地、過酷な現場の最前線に立つ軍人に求められるもの。それは、困難やストレスにしなやかに対処し、完璧にミッションを達成することだ。そのために必要な「冷静さ」を効果的に得る方法こそが「瞑想」なのである。
筆者が瞑想の威力を強く実感したのは、北極でのミッションのときだという。半年ほど白夜が続き、もう半年は完全な闇の世界という環境下では、心身に多大なストレスがかかるため、北極での任務は12か月で必ず終了する規定になっている。しかし、筆者は一日のうちに何度か一人で瞑想する時間を取っていたために、14か月北極に滞在しても、ストレスを調整し、心のバランスを保つことができた。
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