経済学の主流派は、テクノロジーの進歩により、一時的に失業者が生まれても、新たな雇用が誕生し誰もが豊かになれると考えている。しかし、著者は「近い将来、平均的な人間が従事する仕事のほとんどを機械が行い、こうした人たちが新たな仕事を見つけることができなくなる」という仮説を持っている。
機械化がある程度の規模で市場に浸透すると、大量消費市場を基盤として発展してきた経済が衰退するのは避けられない。なぜなら、仕事を通じて所得を得ている人たちこそ、この市場の財やサービスの購入者だからである。機械は人間の代わりに労働ができても、消費はできないのだ。機械化が続くと、ある時点を境に潜在顧客が減りはじめ、その数は機械化によって得られる利益を上回るようになり、企業は雇用調整を強いられる。結果的に消費者はますます市場から追いやられ、需要が減少し、無限の下方スパイラルへと突入していく。一気に加速するテクノロジーの進化によって雇用が奪われると、労働市場が活発に機能してはじめて成り立つ自由市場経済は、基盤そのものが脅かされてしまうのだ。
「ムーアの法則」という経験則によると、コンピューターの計算処理能力は2年ごとにほぼ倍増していく。この急激な発展は、好ましい影響とネガティブな変化をそれぞれもたらしている。前者は、「ヒトゲノム計画」など、大容量を必要とする複雑な問題への処理を複数のコンピューターで可能にする、グリッドコンピューティングとクラウドコンピューティングの発展である。この発展は、科学や医学分野の進歩を促すことになった。一方、後者は、コンピューターの処理能力と速度が進化したことが、2007年のサブプライムローンの破綻の発端となった複雑怪奇な金融派生商品を生み出すことを可能にしてしまったという金融市場への負の影響を指している。
劇的に能力を向上させつづける機械に対して、平均的な人間がこれから先、自己の能力を伸ばせるかどうかについては、事実上頭打ちの状態にある。つまり、労働者としての人間がいずれ機械に能力的に追い越されてしまうだろうことは、容易に予測される。
オートメーションとオフショアリングには、ともに技術の進歩がその後押しをしているという共通点がある。
通信技術、情報技術の進歩によって、多数の業務が低賃金国に移転可能になった。例えば、アメリカのコールセンターで働く者にとって、委託先国の低賃金労働者の存在は脅威である。しかし、受託先のインドやフィリピンの労働者は自動音声装置に置き換えられる事態に直面している。現在、政治的な議論の中心はオフショアリングにあるが、オートメーション化の波ははるかに巨大だといえる。
現在海外に委託されている情報技術の仕事は、10年ほど前には最先端の仕事だったのだが、オートメーション化が進み、短期のうちに雇用がなくなりつつある。「テクノロジーが新たな雇用を創出する」という考えは、正しくもあるが、しかし、新たなテクノロジーの影響で新たな雇用は瞬く間に消え去ってしまう。
アメリカにおいて100万人以上の就業者を持つ全職種を合わせると、全労働人口の40%を占める。その職種を見ると、小売販売店員やレジ係、事務員など、多くはすでにオートメーション化や外部委託が進められ、きわめて高い失業のリスクにさらされている。こうした職種と比べ、テクノロジーがもたらす新しい仕事は、規模も小さく、短命なのである。
機械化の影響をもろに被るのは、スキルに乏しく、職業訓練も特に必要としない低賃金の仕事だと多くの人は思っている。しかし、コンピューターに置き換えられる「ソフトウェア・ジョブ」に携わっているのは、知識労働者にほかならない。
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