ネスレ日本は、売上高に占める直販比率を2013年の8%から2020年には20%にまで伸ばすという。中核となる施策は、「ネスカフェアンバサダー」。職場でネスカフェを広めてくれる「大使」にコーヒーマシンの「バリスタ」を無料提供するかわりに、専用カートリッジを継続購入してもらい、コーヒーを飲んだ同僚から1杯20円の代金を徴収するというフリーミアムのビジネスモデルを採用している。アンバサダーの増加とともにカートリッジの定期購入が増えれば、マシンの先行投資を回収でき、安定した利益を見込めるという。
この新事業を担うのが、マシンの販売担当から異例の社内転職を遂げた津田匡保氏である。アンバサダーの人数を現状の3倍の50万人まで増やすべく、対象とするオフィスの規模の拡大と、オフィスという「定義」の拡大を考えている。
前者は、最も注力していた従業員20人以下の小規模拠点だけでなく、中規模拠点にも手を広げるという戦略だ。販路開拓のため、オフィス家具のイトーキとコラボし、アンバサダー新規登録者にマシン設置用のテーブル台を無料提供する試みも開始している。「マシンを置く場所がない」というアンバサダーの声に応えるためだ。
後者は、人が集う場所をオポチュニティー(機会)と見なし、公民館などの公共施設や、トラックの運転席にも販路を広げるという戦略だ。アンバサダーの半数が病院や学校、美容室などの想定外な職場だったことがきっかけだ。
津田氏は、自動的にカートリッジが届く「ラク楽お届け便」というネット通販を始めるなど、アンバサダーの声にひたすら応え続け、定期購入の離脱者ゼロという結果をもたらした。
しかし、夏になるとコーヒー需要は減る。津田氏はこの事実を正直にアンバサダーに伝えて、代わりにペットボトルのアイスコーヒーを同僚に勧めるキャンペーンを始めた。ボトルコーヒーのサンプルを配布し冷蔵庫や製氷機まで作ったところ、ボトルコーヒーの販売が急増した。アンバサダーのビジネス単体では赤字だが、この事業が有料でのマシン販売に貢献し、バリスタが日本一売れているコーヒーマシンに成長するなど、会社全体での相乗効果を生み出している。
トヨタの新事業企画部の喜多賢二氏は、農業法人、鍋八農産の代表取締役八木輝治氏とともに、スマートフォンを活用した農作業のIT改革に乗り出した。農業法人では、農作業の進捗や作業すべき水田の管理に課題があった。
そこでトヨタは、自動車のテレマティクスサービスで培ったクラウド技術を農業の現場に持ち込み、農業支援を「情報サービス事業」の一つに育てようとしている。トヨタが開発したシステム「豊作計画」を使えば、スタッフはスマホで水田の位置と作業内容を確認でき、進捗をクラウドサービス上に反映して管理者に共有できる。育苗や田起こしといった作業を「工程」として定義し、それぞれの標準時間を決めて1日単位で仕事を割り振る。トヨタ流の工程管理により、管理者は高精度の計画立案ができるようになるのだ。
農業を理解するために、喜多氏は鍋八農産のスタッフと一緒に汗をかいて農業を体感した。トヨタ流の改善アプローチである現場のビデオ撮りで、イノベーションのヒントを探る。3年間の現場経験による大きな学びは、「農作業の流れは製造業と同じく工程として捉えられる」ということだった。
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