ビジネスの前提が流動的に変わる現状において、経営資源の限られている中小企業が生き延びるには、「やらないこと」を決めることが重要である。
そのためには、「天地人の視点」が必要になると著者は言う。「天」は世界や日本のビジネスや業界の流れを知る視点、「地」はビジネス環境のなかの自社のポジションを知る視点、「人」は自社の強みを知る視点だ。
「やらないことを決め、ほかがやらないことをやる」。そう決めて、広島のローカル書店である中央書店は、BL(ボーイズラブ)専門のオンライン書店へと生まれ変わり、成功を収めている。この例に「天地人の視点」をあてはめて、戦略を整理してみよう。
「天」の視点、つまり、大きな業界の流れを考えると、中央書店の内藤店長は当時、オンライン書店であるアマゾンによる書店ビジネスへの影響力の大きさを見越していた。「地」の視点から業界内の自社のポジションを考えると、立地と規模では大資本の書店チェーンにかなわないことはわかっている。「人」の視点に立ったとき、BLが好きな社員がいることを強みにすることに思い至った。
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BLに絞ろう。そう決めてBL専門店「コミコミスタジオ」を楽天に出店したところ、すぐに月の売上が1000万円になった。中央書店は書店業界の常識と戦略の基盤をずらし、「やらないこと」を決め、狭く濃いインタレスト向けのオンライン書店に経営資源を集中投下することで、成功への道を歩み始めた。
中小企業にとって「やらないこと」のメリットはかくも大きいのである。
中小企業にとっての成長とは、社員数や売上高を増やして「大きくなること」ではなく、「サイズを小さいままにとどめ、筋肉質になること」だ。
小さい会社には、環境の変化に適応しやすく、少人数の組織のため素早い意思決定が可能で、機敏に方向転換できる、という特長がある。だからあえて社内にきちんとした制度をつくらないのが正解だ。
こうした企業で理想的となるリーダーシップのかたちは、リーダー一人に社員たちが引っ張られるのでなく、社員一人一人が自力で行動しつつ、チームとなるような、「編隊のリーダーシップ」である。リーダーはチームの目指す具体的な目標を示し、組織文化の形成に努める。そのことで、社員一人一人がバラバラになることなく、しかし自由に動けるようになる。
「やらないこと」を選ぶため、ビジネスを多面的に見ていこう。
まず、「うちは何屋さん」なのかを製品やサービスで定義することを「やらない」ようにしよう、と著者はいう。なぜなら、今メインに売っている商材によって、業界外から参入してきた店が販売攻勢をかけてくれば、その定義はもちこたえられなくなってしまうからだ。アマゾンがネットで参入してきた書店ビジネスや、アップルが参入してきた携帯電話ビジネスが、その例として挙げられる。
事業発展のためには、事業の提供価値を蒸留して考えるとよい。例えば、
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