顧客に最上級のおもてなしを提供することを目指す高級旅館「星のや軽井沢」。2005年の開業以来、サービスの改善を繰り返していることで好評を博している。しかし、菊池昌枝総支配人は「おもてなしが接客担当者の経験に基づいた感覚的なものであることが多い」という現状を懸念していた。特に意欲がある20歳代の若いスタッフが、善かれと思って行うサービスが的外れで、顧客の不満を招く恐れがある。
そこで、2013年春、「工学的アプローチ」によってスタッフ個々の接客スキルを高める改革に乗り出した。「顧客満足度の向上」という目標を、「接客」「所作」などに細分化し、各研修をスタッフに受講してもらう。現場での実践度を数値化し、研修の効果を分析するのだ。2014年2月時点で宿泊客の満足度が徐々に上がり、成果が出始めている。
総支配人は、満足度向上に直結する研修メニューが何なのかを多角的に検証したいと今後の展望を語る。
経験や勘だけでなく、科学・工学的手法で接客品質を高める「星のや軽井沢」の施策は、オリンピック・パラリンピックの誘致で注目を集めた「おもてなし」の質を高める「宣言」だといえる。
こうした取り組みの立役者は、データ分析でサービスレベル向上や事業成長を促す人材「グロースハッカー」だ。サービス業では、顧客の評価に直結する接客の善しあしが、現場スタッフの経験や気配り次第になっているため、科学的アプローチがレベル向上の鍵となる。その代表的な成功事例は、「仲居センサー」で変革を進めている和食店、がんこ銀座四丁目店だ。
がんこフードサービスの新村猛副社長は、銀座四丁目店のスタッフが十分な接客時間を取れていないのではないかと不安を抱いていた。サービス工学の研究者でもある彼は、行動観測のエキスパートとともに、センサーにより仲居さんの行動記録を分析した。すると、スタッフが夜間に配膳に時間を取られ、接客エリアに40%未満しかいられない一方、午後2~5時には注文が少ないという現状が明らかになった。そこで、接客時間の振り分けを改善した結果、注文件数を以前より約4割も増やすことができた。
同社はセンサーによるスタッフの位置情報とPOSデータによる注文受付件数を分析し、スタッフの最適な配置計画に役立てた。さらには、調理場と料理人の動きをPC上でシミュレーションする「調理場シミュレーター」を店舗設計に生かした。シミュレーターで発見した課題を見直すことで、顧客満足度に直結する「リードタイム」の短縮を実現させたのだ。実際のところ、調理場の設計にシミュレーターを使った店舗は、そうでない店舗に比べ、売上高が3割高いことが分かった。料理提供のリードタイムを縮め、顧客満足度と売上の両方を高めたがんこの取り組みは、現場におけるグロースハックの好例といえる。
統計学とプログラミングでネットサービスを急成長させるグロースハッカー。彼らの活躍は、フェイスブックやツイッターなど海外のネット企業に限った話ではない。実は日本でもグロースハッカーが目覚ましい成果を上げている。
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