取締役会のリーダーシップの重要性が増している。1980年代 、「企業は誰のものか」という議論が盛んになり、株主が積極的に自らの権利を主張し始めた。取締役会は大株主である機関投資家の代理として経営陣を監視するようになった。こうした動きの中で、取締役が果たすべき義務として確立されたのが、「注意義務」と「忠実義務」である。前者は、取締役の合理的な注意をもっての責任遂行を、後者は取締役の「株主の代理」としての適切な受託者判断の必要性を説くものであった。同時に、会社が下す決断が複雑化するにつれ、リーダーシップ義務というさらなる責任も不可欠なものになっていった。
取締役と経営陣は取締役会を「双方がかかわって会社の重要な決定を下す場所」とみなすようになった。例えば、企業戦略、資本配分、経営幹部の承継や報酬、人材開発、企業リスクについてである。
ボードリーダーにとって重要な任務の一つは、「取締役会が先頭に立つとき」、「協力するとき」、「関与しないとき」を見極めることである。例えば企業戦略の立案などにも深くかかわるが、業務遂行は経営陣に任せなくてはいけない。
取締役が真っ先に取り組むべき課題は、基本理念を明確かつ説得力のあるものにし、メンバー全員がそれを確実に理解できるようにすることだ。基本理念は、戦略を遂行するための拠り所になるからである。事業戦略を評価する際にも基本理念を参照し、それが運営にどのように反映されているかを確認する必要がある。
確固たる基本理念によって急成長しているインドの通信会社、バーティ・エアテルを例にとろう。
同社は、「他社より早く成長する。圧倒的なナンバーワンを目指して拡大する」という理念を、より具体的かつ測定可能な実行プランに落とし込んだ。エアテルが電話ネットワークと顧客関連のインフラを外注したときは、世間はコア・コンピテンシーを外に投げ出すようなものだと受け止めた。しかし、エアテルは「規模とスピード」という理念に従い、一見すると非常識とも言うべき決断を下したのだ。結果的に2012年時点で、エアテルは顧客数、ブランド認知度、売り上げシェア、市場価値において、インドでナンバーワンの携帯電話会社の座に躍り出た。
基本理念と戦略と実行の組み合わせがあるからこそ、取締役と経営陣はぶれることなく合理的に行動することができたのである。
取締役会に リーダーシップ機能を持たせるには、基本理念に合致したリーダーシップを発揮できる新しいタイプの取締役が必要だ。選定条件の一部を紹介しよう。
・会社全体、顧客価値、競争力について戦略的に考え、基本理念の展開に継続的に貢献できるか
・運営上の細かなプロセスに介入することなく、取締役会の議論に貢献できるか
・他社で、経営陣と連携しながら、基本理念にもとづいた新しいビジネス手法を開発し、導入した実績があるか
こうした条件を満たす取締役を選んだ事例として、中国を代表するコンピュータメーカーのレノボを例に取り上げよう。
レノボの経営陣は、会社の長期的な成長のためには、中国市場を死守するだけでなく、グローバル・プレイヤーとして戦う必要があると判断した。IBMからパーソナルコンピュータ部門を買収するという決断を下したとき、当時の執行会長リューは、買収後に海外から取締役を迎え、経営陣に助言を与えるという役割を取締役会に追加した。独立性とグローバルな情報機能を備えた、積極的なガバナンス体制をつくりあげるためだ。
その後も取締役会は、CEOを替える必要性を察知し、速やかに実行した。また、レノボとIBMという異なる企業文化の統合を促進し、同社はPCのグローバル市場においてナンバーツーの地位を獲得した。
リーダーシップを発揮するには、取締役同士および取締役と経営陣の間の信頼関係が欠かせない。基本理念を理解し、経営陣と連携しながら取り組み、積極的にリーダーシップを発揮できる取締役を据えることが重要なのである。
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