問題の分析を専門にするコンサルタントの活躍の影響もあり、SWOT分析、ロジックツリーというようなフレームワークを使おうという人が増えている。ただ、実はこのようなロジカルシンキングには限界がある点を考慮すべきである。新規事業や研究開発テーマの検討をする際には、未来の状況変化や不確実性の影響が大きいため、ロジカルシンキングだけでは具体化が十分に進められないのである。
実はこのような課題に取り組む際には、ロジカルシンキングで集めた材料をもとに、アイデアの「ひらめき」や「跳び」が求められる。このように現状分析から戦略を直接導き出すことは天才思考と言えるのに対して、現状分析の後、選択肢、不確実性、価値判断尺度と検討を進めて、戦略策定に至るプロセスを熟断思考と呼ぶ。現状分析から戦略策定の間を埋める実践的ノウハウは世の中にほとんどなく、この熟断思考こそ役に立つ思考術と言える。
「熟断思考」が生まれた背景は、著者がマッキンゼーでロジカルシンキングを学んだ後、スタンフォードで意思決定論を学び、それらを組み合わせることが効果的だと認識したためだという。特にロジカルシンキングで扱いにくい、「選択肢」「不確実要因」「価値判断尺度」という点について、個々に分解して統合する「熟断思考」の6つのポイントを紹介する。
1.悩みや課題のリストアップと全体観の把握
どのような課題に直面しているか、悩むべき課題は何か、正しいアプローチかの3点を検討する。複数の課題が対象であれば、すべてリストアップし、優先順位を付ける。
2.個別課題のフレーム設定
優先順位の高い課題に対して、「いつ頃、どうなったら嬉しいのか?」を考え、それに向け決めるべきこと、コントロールすべきことなどを洗い出していく。
3.具体的な複数の選択肢の検討
視野を広く、選択肢を創造的に洗い出す。
4.不確実要因の明示的な取り扱い
個々の選択肢を実行した際に、結果に大きな影響を及ぼす不確実な要因をリストアップする。そしてその不確実な要因がどのような確率で起こるかを考える。
5.価値判断尺度の認識
選択肢を選ぶ基準を考える。最終的には、意思決定者のトータルの嬉しさを重視する。
6.これまでの1~5を統合した最終的な意思決定への取り組み
それぞれの選択肢におけるトータルの嬉しさの期待値を計算し、意思決定を行う。
このような熟断思考を経ることで、不確実要因が読み切れず思うような結果が得られないことはあっても、考慮が足りなかったと後悔することはなくなるのである。
課題に直面して初めに考えるべきことは、その課題が熟断思考を必要とするかどうかだ。多くの問題は即座に実行に移し、トライ&エラーを繰り返すことで対処できるものである。そこで、熟断思考の適用要否を判断するためには3つの確認事項が存在する。
1.実行した後、結果が出るまでの時間が長い
2.投入する経営資源が自分の経営資源に占める割合が、非常に大きい
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