コンビニ各社のロールケーキブームの火つけ役は、ローソンの『プレミアムロールケーキ』だった。154円の売値で、このおいしさを実現したのは、商品本部本部長補佐を務める鈴木氏だ。デザートで競合に出遅れていた2009年当時、彼はメインターゲットを男性から女性にシフトするという大胆な決断を行った。
鈴木氏が取り組んだのは、百貨店や専門店のスイーツを食べ慣れている女性ならではの声に耳を傾けることだった。一番多かったのは「生クリームがおいしくない」というもの。値段は少し上がるが、生クリームを変えてスケールメリットを活かし、百貨店や専門店のデザートよりは安いという新しいマーケットを作ろうと考えた。「最初はミルク感があるけれど、すごく軽いクリーム」という求める味を目指し、半年間、140種類のクリームを自らの舌でチェックした。おいしいクリームを作ることが肝だと考え、納得した味を巨大な流通網に供給できる、釧路の乳業メーカーにクリームの納品を頼み込んだという。
おいしいクリームに気づいてもらえるスイーツとして選ばれたのは、ロールケーキだった。「有名店に負けない品質で、一本売りではなく一人前のものを作れば、世の中にない。」プレミアムロールケーキは、生地を巻くのもクリームを絞るのも、人の手で行われている。鈴木氏は、ふんわりとした繊細な生地にもこだわった。生地の温度、焼く時間、スピードなど、工場で何十回もラインテストを行った。
当初、ターゲットを20代、30代の女性に絞るのはコンビニでは前代未聞で、鈴木氏は社内の猛反対に遭った。味だけでなくネーミングやパッケージも改良を重ね、役員会での試食という社内の意思決定の場がやってきた。社長がクリームを一口食べた直後に出てきたのは「うまいっ!」という一言だった。その後、役員全員のスタンディングオベーションとなった。
これを自信にして、新商品のPRにも人海戦術で全力を尽くした。加盟店への試食のお願いに、社員や家族への優待の配布、そしてトレンドに敏感な女性たちが集まる場へ積極的に打って出た。「お客さまやお店の人に『これ、おいしいんだよね』ということが伝わっていないと意味がない」という鈴木氏の信念の表れだ。
その結果、プレミアムロールケーキは、売り切れ続出の反響やテレビCM、モンドセレクションの金賞受賞と相まって、最高で1日60万個が売れる超メガヒットとなった。女性が続々とローソンに足を運んだことで、コンビニスイーツのイメージも一新してしまったのだ。
ローソンでは、スタッフが淹れたコーヒーを受け取る対面販売形式をとっており、顧客が自分で機械を操作するセルフ式とは一線を画している。
ローソンの『MACHI cafe コーヒー』をつくり上げたのは、商品本部本部長補佐の吉澤氏である。プロジェクト発足時、コーヒーメーカーに全部お願いする方法では競争に勝てないと吉澤氏は読んだ。競合他社がまねできないような商品、サービスをつくり、コーヒーを通じて会社を変えていきたいという思いがあったのだ。
そんなとき、お客さまへのヒアリングで得たヒントはこれだった。
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