人はどうしてこんなに疲れてしまうのだろうか。疲れているなら家で休めばいいのに、3次会に行ってしまう。お腹がすいていないのにシメのラーメンを食べてしまう。体が悲鳴をあげているのに仕事をやめない。こんなに自分を痛めつける生物は人間だけだ。
原因は、私たちの「脳」にあった。こうした行動をとってしまう「欲」「好奇心」「恐れ」は脳が生み出すのだ。
人間の脳は抽象的なことを考えられるのが特徴である。色んなことを脳内で組み合わせ、今までになかったことを作り上げる。私たちの祖先は、この脳を有効に使って、よくしなる枝と弦を組み合わせた弓矢を発明したりしていた。が、今から6000年前、文明ができた頃から、人間はその能力を人間関係に対して使うようになってしまった。そして「悩み」や「不安」など負のものを生み出した。これらが頭の中でずっとぐるぐる巡るような状態になると、脳は一転して人を苦しめ、うつや自殺を引き起こすことにもなりかねない。
人間の脳は、進化の過程で様々な遺伝子が誤用され、転用され、流用される中で偶然に生まれたものだ。しかしながら、「脳」の前に、私たちが人間として発生する時、体の設計図となったのが両親から受け継いだヒトゲノムの「遺伝子」である。遺伝子は人間の体だけでなく行動も生み出している。だからこそ、脳よりも遺伝子のことをまず知るべきではないだろうか。
遺伝子は、人間に大きな影響を与えている。
たとえば、人間には、「オキシトシン」という愛情を呼び起こすホルモン分泌に関わる、「愛情遺伝子」と呼ばれる遺伝子がある。「甘え上手」や「世渡り上手」と言われる人と、「一匹狼」と言われる人の違いは、愛情遺伝子によって決まるホルモン分泌やそれを受け取る受容体の量にあるのかもしれない。「人付き合いに興味が持てない。自分は冷たい人間だ」と悩む人もいるが、それはそういう体を持って生まれただけのこととも考えられるので、気に病むことはない。さらには、人間の暴力性を決める「暴力性遺伝子」の存在も明らかになりつつある。
また、日本人はよく寝る国民と言われており、特に電車内で多くの人が居眠りする光景は海外の人の目には異様に映るそうだ。この光景も遺伝子の観点から考えると、見え方が変わってくる。日本人は、「眠りがちな体質」という特徴を遺伝子的に持っているのだという。遺伝子によって決定づけられる「ナルコレプシー」という睡眠障害があると、日中に突然強烈な眠気に襲われる。日本人がナルコレプシーを発症する割合は、欧米の人に比べると倍にのぼるそうだ。自分に必要な睡眠時間は遺伝子で決まっており、どうにかなるものではない。どうしても昼間耐え難い眠気が来る人は、長時間働かなければならない仕事は避けてしまうのがいいかもしれない。
睡眠に関することだけでなく、日本人がお酒に弱いのも遺伝子的な特性といえる。お酒が飲めない人は、遺伝子レベルでお酒を分解する酵素の活性が低いのだから仕方ないのだ。
遺伝子の影響はなんとか変えようとして変えられるものではないので、無理に変えずにその性質を活かす方法を考えるのがよい、と著者はいう。
遺伝子は、人間の行動や情動だけでなく、歌がうまい、スポーツが得意であるといった個性も決定づけている。遺伝子で決められた、その人自身の能力の凸凹を、著者は「遺伝的なランドスケープ(風景)」と呼んでいる。
足りない部分は努力である程度カバーできるが、自分のランドスケープに合った生き方を見つけることが楽な人生の一番の近道である。「これは向いていないな」と感じることを素直にやめてしまえないのは「脳」のせいである。
3,400冊以上の要約が楽しめる