日産GT‐R。センセーショナルにポルシェのタイムを抜き、世界中のセレブがそのファンとなったスーパーカー。その開発は、実に一年半という短期間で成し遂げられた。期間だけではない。開発チームの人数は通常の半分以下であり、販売価格800万円という低価格を実現した。そこには、「高性能のモノを作ればトップになれる」という技術中心の考えではなく、お客さんに感動を与えたいという想いから生まれた、数々の工夫があった。
車は「モノ」であるといえばそれまでだが、「モノ」には必ずそれを使う人の「気持ち」がついてくる。世界のトップブランドとなる車を作るときに考えたのは、「人の心」だった。世界を代表する富裕層であるアラブの王族に、特別な仕様のモデルを一般市民に先駆けて売り出したり、世界のメディアを巻き込んでポルシェとのタイム勝負を演出したりするなど、「この車はすごい」「どうしてもほしい」と思わせるような特別感を高める戦略を実行していった。人がほしいと思う心がすなわち、マーケットとなったのである。
それだけではない。一流のブランドとは、「時間が経過しても価値が変わらないもの」。だから中古車でも値下がりしないことを念頭に、メンテナンスの基準を厳しくするなど品質の向上を目指した。そのような努力の結果として、GT-Rは世界のトップブランドへと登りつめたのである。
低価格を実現したGT‐Rであったが、部品には世界の名だたるメーカーのものが使われ、タイヤはGT‐Rのために3000種類もの試作を経た高性能のものが使われた。そこには、「一緒にいいものを作りたい、夢を実現させたい」という、各メーカーとの強いパートナーシップがあった。世界の一流メーカーといえども、そこにいるのは「人」。相手を知り、気持ちに訴え、心を動かすことができれば、どんな相手とでも協業できるのだ。自分の欲のためではなく相手のことを考え、目標を共有できたとき、「一緒に世界一の車を作ろう」という絆と、いい仕事が生まれるのだ。
GT‐Rの開発チームは、通常の所属組織を離れて特別に編成された。組織の中での利害関係から切り離され、意思決定のスピードも速くなるからだ。一人あたりの責任を大きくすることでパフォーマンスもよくなる。コンパクトなチームは全体が見通しやすく、今どこで何が起きているのかわかり、すぐに調整や交渉ができる。
リーダーの役割は、ゴールを明確にし、その道のりを示すこと。ギャップを感じたら軌道修正し、「ここまでやってダメだったら引き返す」というポイントも考えておく。チームのメンバーは定期的に入れ替え、風通しをよくする。時には自分の立ち位置をあえて下げることで、メンバーから率直な意見や現状を聞き出す。チームの士気を上げるため、試乗会を開いてお客さんの声を体感させる。そうしてメンバーの心をしっかり見つめて舵をとった。
現場や工場、部品メーカーとも、打ち合わせに出向き「こういう車を作りたい」という想いを共有する。一緒に車を作るパートナーにも同じ志をもってもらうことで、生産段階においても高い質を保つことができたのだ。
今「日本のモノ作り」は危機にあると言える。機能は多くても、本当に使う人のことを考えているのか疑問に感じるモノばかりなのだ。
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