トヨタ生産方式は様々な企業に浸透しているが、本来の目的から離れ、人件費の削減や、生産の海外移転だけが行われるため、結果として効果のないものになっている事例が多い。本質を理解するために、トヨタ生産方式が生まれた経緯を振り返りたい。
著者の父、喜久男氏はトヨタに入社した後、エンジンや変速機を生産していた本社工場機械部に配属された。当時、工場には入れ墨が入った渡り職人も多くいて、一つの仕事しかできない「単能工」の作業者がほとんどだった。ボール盤はできるが、フライス盤はできないというように、複数の種類の工作機を扱えない職人が多かったのだ。
トヨタは、戦後不況に伴う従業員の大量解雇の後、1950年に始まった朝鮮動乱による特需のため、自動車の大幅な増産が求められた。そこで、喜久男氏は生産量を増やすために、一人の職人が複数の仕事をこなせるようにする、「多能工化」を進めたのだった。各機械に職人が縛られなくなったことから作業の効率化が進み、複数の作業工程をこなすことは作業者の雇用の安定化にもつながった。トヨタにおいては、「多能工化」は必要に迫られて生み出されたシステムだったのである。
著者によると、実は「欠品」と「在庫過多」という全く逆の現象の原因は、同じであるのだという。著者がある医療用雑貨の生産工場の現場指導に行った時の例を挙げたい。医療用雑貨は基本性能が同じでも、自社ブランド、プライベートブランド、ドラッグストア向け、というように品番が分かれるため、1つの製品シリーズでも管理する品番が30ほど存在していた。ある品番では欠品が生じていた一方で、別の品番では逆に在庫過多になっていた。
その工場では何億円もの設備投資をして、最新鋭のコンピュータによる在庫管理システムを導入したのに、改善ができていなかったのだ。実際に物流倉庫を見ると、製品の流れが「見える化」できていなかったことが、根本的な原因だとわかった。そこで、倉庫に「同じものが同じ場所に置かれる仕組みである『ストア』」を設置することにした。
地面にテープで線を貼って、部品・製品ごとの置き場を決め、在庫量も5日分とルールを決めたことで、欠品問題は解消された。投資額はわずか数百円だった。
欠品と在庫過多の根本的な解決策は、需要予測の精度を上げるか、注文に応じてレスポンス良く製品を造るかの2つである。しかし、当たる需要予測をすることは極めて難易度が高い。それよりも、来た注文に対する素早いレスポンスを実現する方が現実的であり、ずっと重要性が高い。
よく、見込み生産から受注生産に変更することによって、在庫の問題を解決しようとする会社があるが、よほど上手く対応しない限り、納品までお客様を待たせてしまうことになる。競争の激しい業界では、納期まで時間がかかるというだけで、劣勢になってしまう。そのため、本来は顧客のために適正在庫を持つべきなのである。
自動車であれ、家電製品であれ、「受注、即納品」の商品供給体制を築くことが理想型である。牛丼屋や寿司屋で、注文後すぐに料理が出るようなかたちだ。「受注、即納品」の実現を果たせば、最大の顧客満足が得られるだろう。
消費者がモノを買う理由は次の3つだと言える。
①機能やブランドを評価し、気に入って買う。
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