トヨタ生産方式の逆襲

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トヨタ生産方式の逆襲
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トヨタ生産方式の逆襲
出版社
文藝春秋
出版日
2015年01月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

トヨタ生産方式というと、何を思い浮かべるだろうか。「かんばん」「カイゼン」「ストア」「ジャスト・イン・タイム」「見える化」という重要な概念とともに、「在庫を持たない」というイメージを思い浮かべる方も多いかもしれない。しかし、トヨタ生産方式の考え方では、売れるものをタイミングよく出すためであれば、在庫は持つべきだと指導することが正しいのだそうだ。その、意外とも言えるトヨタ生産方式の本質に迫ったのが、本書である。

著者の父の鈴村喜久男氏は、トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一氏の片腕として活躍した人物だ。著者自身もトヨタ自動車に勤め、トヨタ生産方式を学んでいる。著者が大野氏の工場視察に同行すると、大野氏は「わからん、わからん」と大きな声で繰り返し叫んでいたのだという。「見える化」や「なぜを5回繰り返す」の原点は、その「わからん、わからん」なのだと言う著者の言葉は、実感がこもっていて、爽やかな読み心地がする。

本書の大部分は、著者が生産現場を渡り歩いたときの指導録であり、実際の工場の問題や解決策がコンパクトにわかりやすく表現されている。そして、解決していった課題には、自動車や家電を中心とした製造業だけでなく、多くの業種で応用できる汎用的なものが多いことに気付くだろう。在庫を持ち生産プロセスが存在する業種で働くビジネスパーソンであれば、本書から製造の流れを根本から考え直すヒントが得られることだろう。日本に自動車産業という基幹産業を育てたトヨタ生産方式を学び、日々の業務に活かしてみようではないか。

ライター画像
大賀康史

著者

鈴村 尚久(すずむら なおひさ)
1952年生まれ。1976年、京都大学法学部卒業後、トヨタ自動車工業(現、トヨタ自動車)入社。経理部、第2購買部、産業車両部、生産調査部、販売店業務部、国内企画部に勤務。1997年、退職。1999年、エフ・ピー・エム研究所を設立して、現在に至る。父・喜久男氏(故人)は、「トヨタ生産方式」の生みの親・大野耐一氏の右腕。

本書の要点

  • 要点
    1
    欠品と在庫過多の根本的な解決策は、来た注文に対して素早くレスポンスをすることである。「リードタイムの短さは七難隠す」とも言われるほど、レスポンスの早さは重要なのである。
  • 要点
    2
    トータルでの在庫量はコントロールすべきだが、在庫自体が悪なのではなく、売れるものをタイミングよく出すためであれば、在庫は持つべきだ。
  • 要点
    3
    「かんばん」には、後工程から部品を引き取られたことを示し、前工程でその部品の生産指示をするための「仕掛けかんばん」と、数量や品番などを間違えないで引き取るための確認用となる「引き取りかんばん」の2種類が存在する。

要約

【必読ポイント!】「常識」を疑い、パラダイムを変えよ

「単能工」から「多能工」へ
kzenon/iStock/Thinkstock

トヨタ生産方式は様々な企業に浸透しているが、本来の目的から離れ、人件費の削減や、生産の海外移転だけが行われるため、結果として効果のないものになっている事例が多い。本質を理解するために、トヨタ生産方式が生まれた経緯を振り返りたい。

著者の父、喜久男氏はトヨタに入社した後、エンジンや変速機を生産していた本社工場機械部に配属された。当時、工場には入れ墨が入った渡り職人も多くいて、一つの仕事しかできない「単能工」の作業者がほとんどだった。ボール盤はできるが、フライス盤はできないというように、複数の種類の工作機を扱えない職人が多かったのだ。

トヨタは、戦後不況に伴う従業員の大量解雇の後、1950年に始まった朝鮮動乱による特需のため、自動車の大幅な増産が求められた。そこで、喜久男氏は生産量を増やすために、一人の職人が複数の仕事をこなせるようにする、「多能工化」を進めたのだった。各機械に職人が縛られなくなったことから作業の効率化が進み、複数の作業工程をこなすことは作業者の雇用の安定化にもつながった。トヨタにおいては、「多能工化」は必要に迫られて生み出されたシステムだったのである。

会社の実力は「倉庫」でわかる
Ryan McVay/Photodisc/Thinkstock

著者によると、実は「欠品」と「在庫過多」という全く逆の現象の原因は、同じであるのだという。著者がある医療用雑貨の生産工場の現場指導に行った時の例を挙げたい。医療用雑貨は基本性能が同じでも、自社ブランド、プライベートブランド、ドラッグストア向け、というように品番が分かれるため、1つの製品シリーズでも管理する品番が30ほど存在していた。ある品番では欠品が生じていた一方で、別の品番では逆に在庫過多になっていた。

その工場では何億円もの設備投資をして、最新鋭のコンピュータによる在庫管理システムを導入したのに、改善ができていなかったのだ。実際に物流倉庫を見ると、製品の流れが「見える化」できていなかったことが、根本的な原因だとわかった。そこで、倉庫に「同じものが同じ場所に置かれる仕組みである『ストア』」を設置することにした。

地面にテープで線を貼って、部品・製品ごとの置き場を決め、在庫量も5日分とルールを決めたことで、欠品問題は解消された。投資額はわずか数百円だった。

「受注、即納品」を目指せ

欠品と在庫過多の根本的な解決策は、需要予測の精度を上げるか、注文に応じてレスポンス良く製品を造るかの2つである。しかし、当たる需要予測をすることは極めて難易度が高い。それよりも、来た注文に対する素早いレスポンスを実現する方が現実的であり、ずっと重要性が高い。

よく、見込み生産から受注生産に変更することによって、在庫の問題を解決しようとする会社があるが、よほど上手く対応しない限り、納品までお客様を待たせてしまうことになる。競争の激しい業界では、納期まで時間がかかるというだけで、劣勢になってしまう。そのため、本来は顧客のために適正在庫を持つべきなのである。

自動車であれ、家電製品であれ、「受注、即納品」の商品供給体制を築くことが理想型である。牛丼屋や寿司屋で、注文後すぐに料理が出るようなかたちだ。「受注、即納品」の実現を果たせば、最大の顧客満足が得られるだろう。

「タイミング」を売れ!

モノを買う3要素

消費者がモノを買う理由は次の3つだと言える。

①機能やブランドを評価し、気に入って買う。

②価格が安いので買う。

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要約公開日 2015.08.27
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