「時間消費」で勝つ!

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「時間消費」で勝つ!
出版社
日本経済新聞出版社
出版日
2015年09月10日
評点
総合
4.3
明瞭性
4.5
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

スマホの出現により、すきま時間の有効活用が可能となり、「時間価値」が一層高まっていることは、多くの方が無意識的に感じていることだろう。では、これからの「時間消費」はどのように変化していくのだろうか。企業が事業を営む上で、本質的かつ重要性の高いこのような問いに鮮やかに答えているのが本書である。

著者の1人、松岡氏の前作である『時間資本主義の到来』は、今後の時間消費に対して新たな視点を提供し、目から鱗の一冊だった。本書はその続編の位置付けであり、更なる論旨の深堀りや、豊富な事例からの示唆が提供される、決定版とも言える1冊である。

第1章の導入である動物と植物の違いという書き出しを読めば、本書の世界観に魅せられることだろう。「時間を節約したり効率的に使ったりすることで得られる満足」である「節約時間価値」、「時間そのものを有意義に創造的に過ごすことで得られる満足」である「創造時間価値」という2つの概念は、今後ますます重要になる考え方であり、そのような時間価値を提供できないサービスは淘汰の憂き目に遭うかもしれない。

本書のメッセージは、小売・流通業、製造業、ITサービスはもとより、あらゆる産業に影響が大きい時代の変化を捉えたものだ。読者の会社で提供するサービスが、消費者のどの時間価値を追求したものなのか、改めて考え直す機会になろう。会社経営を担う層だけでなく、新サービスの企画を行う方、顧客満足を追求するセクションの方など、本書が幅広い層に読まれ、革新的なサービスが生み出されていくことを願う。

ライター画像
大賀康史

著者

松岡 真宏(まつおか・まさひろ)
フロンティア・マネジメント 代表取締役
東京大学経済学部卒業後、野村総合研究所やUBS証券などで、流通・小売り部門の証券アナリストとして活動。UBS証券で株式調査部長に就任後、金融再生プログラムの一環として設立された産業再生機構に入社し、カネボウやダイエーの再生計画策定を担当。両社では取締役に就任し計画実行に携わる。2007年に弁護士の大西正一郎氏と共同で、フロンティア・マネジメント株式会社を設立し、共同代表に就任。国内外で、経営コンサルティング、M&A助言、企業再生を軸とした経営支援を行う。著書に『時間資本主義の到来』(草思社)『小売業の最適戦略』(日本経済新聞出版社)『流通業の「常識」を疑え!』(同、共著)『百貨店が復活する日』(日経BP社)『問屋と商社が復活する日』(同)『逆説の日本企業論』(ダイヤモンド社)等がある。

松本 渉(まつもと・わたる)
フロンティア・マネジメント マネージング・ディレクター
東京大学文学部卒業後、総合商社、グローバルコンサルティングファームを経て、2013年よりフロンティア・マネジメントに入社。消費財メーカー、小売・サービス業に関する多数のコンサルティング実績を有する。公認会計士。

本書の要点

  • 要点
    1
    「時間を節約したり効率的に使ったりすることで得られる満足」である「節約時間価値」、「時間そのものを有意義に創造的に過ごすことで得られる満足」である「創造時間価値」の2つの時間価値を意識したサービス設計が求められていく。
  • 要点
    2
    消費者はモノの対価としてだけお金を支払っているのではなく、高められた「時間価値」にお金を支払っている。時間の稀少性が高まる昨今、「時間価値」を高めることこそが、企業活動に求められる本質である。

要約

【必読ポイント!】時間消費の新潮流とは?

スマホの登場が「時間価値」を大きく変えた
©iStock/AntonioGuillem

動物と植物の違いは何か? 細胞壁の有無、光合成の有無、栄養摂取のために動物は動き回り植物は動き回らない、という3つが大きな相違点らしい。特に3番目の動物は動くという点について注目する。

我々人間も動物であるため、当然ながら「動く」特徴がある。その目的は、学校へ行ったり、職場に行ったり、友人と会ったり、レストランに行ったりと様々であり、我々は人間的で文化的な生活を営むため、動き回っている。

人間が意識的に速度を要求し始めたのは、古代オリエント時代のチャリオットと呼ばれる戦闘用馬車だろう。馬を複数立てにした二輪車は、戦争に勝利するために生み出された。その後、馬車や帆船が速い移動手段だったが、蒸気機関の発明により鉄道や大型の船舶が生まれ、自動車や飛行機、リニアモーターカーに至っている。

交通手段の技術が目覚ましく進歩する一方で、ある程度のまとまった移動時間である「かたまり時間」や、性質の異なる時間として電車の乗り換えの時間などに発生するこまぎれの時間である「すきま時間」も生じている。

しかし、この枠組みは急速に普及したスマホやタブレットPCにより根底から瓦解する。それらの登場により、長時間移動の「かたまり時間」や、通勤時の地下鉄での一駅通過するために生じる「すきま時間」を有効に活用することが可能になったのだ。

「すきま時間」に着目せよ

スマホを保有することで、移動に伴う「かたまり時間」も「すきま時間」も自在に活用できるようになった。最新のヒット曲を探してストリーミング配信でその音楽を楽しみ、銀座のネイルサロンを予約し、ニュースのキュレーションサイトで最近のギリシャ問題に関する内容をチェックすることもできる。

したがって、動物と植物の相違点である「動く」という行為において、人間と他の動物の間で、「動く」という行為の中での複数目的の実現可能性という違いも生まれた。

スマホを駆使して使用可能となった「すきま時間」は、移動という行為のみで発生するとは限らない。本を読みながら気分転換に窓の外を眺める時間、朝食のバナナをかじりながらボーっとする時間、会議の相手が5分遅れて来ることになり急に発生した空き時間などだ。

このような偶発的かつアトランダムに発生する「すきま時間」の価値は哲学的にはあるかもしれないが、経済合理的な意味においては価値が高くなかったのである。しかし、スマホにより「すきま時間」の価値が飛躍的に増大した。そのため、商売を行う企業側も、そのような消費者の変化に対して、マーケティング戦略や商品戦略で大きな転換が迫られることになる。

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要約公開日 2015.10.12
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