佐治敬三と開高健 最強のふたり

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出版日
2015年06月23日
評点
総合
4.3
明瞭性
5.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

佐治敬三と開高健。この2人は特別だ。開高健という時代を代表する芥川賞作家が、佐治敬三が経営するサントリーで雇われ、厚遇されていたという事実には、サントリーという会社の懐の深さが表れている。NHK連続テレビ小説「マッサン」にも描かれていたこともあり、ウイスキー事業参入時のサントリーの様子は印象に残っている方も多いかもしれない。

佐治敬三はサントリーの創業者である鳥井信治郎の後を継ぎ、見事にサントリーを我が国を代表するグローバル企業に押し上げた、名経営者である。ウイスキー事業を拡大し、ビール事業への参入を果たし、サントリー美術館、サントリーホールなどの文化事業に惜しげもなく金を出し、会社からは芥川賞作家の開高健、直木賞作家の山口瞳を輩出した。

一方、開高健は言わずと知れた大作家である。「闇三部作」を筆頭に著名な書籍は数多く、教養人であれば彼の著作を読んだことがないとは言いにくいだろう。開高健はベトナム戦争の最前線に身を置くような、大胆な行動に出た反面、鬱を抱え、繊細な心をあわせ持つ、奥の深い人物だと言えるだろう。

傑物2人の関係に注目し、それぞれの人生を描いた本書は、彼らの息づかいまで伝わってくる内容で、480ページの厚さを感じさせないほどに熱中させる一冊に仕上がっている。サントリーや佐治敬三という経営者、開高健という文豪に興味のある方はもちろんのこと、読み応えのある偉人伝を読みたいと願う全ての方にお薦めしたい書だ。

ライター画像
大賀康史

著者

北 康利(きた・やすとし)
1960年名古屋市生まれ、東京大学法学部卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)入行。資産証券化の専門家として、富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長、業務企画部長を歴任、2008年みずほ証券退職。本格的に作家活動に入る。著書に『占領を背負った男 白洲次郎』(第14回山本七平賞受賞 累計47万部)、『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』『吉田茂 ポピュリズムに背を向けて』(以上、講談社)、『陰徳を積む――銀行王・安田善次郎伝』(新潮社)など、最新刊は、『西郷隆盛 命もいらず 名もいらず』(ワック)

本書の要点

  • 要点
    1
    サントリーの2代目社長の佐治敬三は失職中だった開高を拾い上げ、宣伝部のコピーライターや伝説のPR雑誌『洋酒天国』の編集長として活躍させた。作家との二足のわらじをはくことも許し、開高は在職中に芥川賞を受賞することになった。
  • 要点
    2
    佐治敬三はまさに太陽のような存在だった一方で、繊脆な一面も併せ持っていたことから、開高健と理解し合えた。
  • 要点
    3
    ベトナム戦争でベトコンとの熾烈な戦いの最前線を経験した開高は、その体験をどう作品に昇華するか七転八倒したあげく、渾身の長編小説「闇三部作」の一作目、『輝ける闇』を送り出した。

要約

序章

佐治敬三と開高健
Kondor83/iStock/Thinkstock

芥川賞史上もっともハイレベルな選考会として知られる、のちのノーベル賞作家大江健三郎との一騎打ちを制し、開高健は作家として十分に認知されていた。しかし、朝日新聞社臨時海外特派員として南ベトナム政府軍に従軍し最前線を取材するうち、ベトコンとの銃撃戦に遭遇する。開高は表面上豪快に見えるが、性格の根本に繊脆なところがあった。そんな開高を戦地に駆り立てたのは、アメリカの正義なるものの欺瞞を暴くとともに、「ある男」のように、もう一段上を目指すためには土に額をこすりつけなければならないと考えていたこともある。

「ある男」とは、佐治敬三である。サントリーの2代目社長であり、会社帰りにバーで一杯という文化を日本に根づかせた人物だ。敬三は失職中だった開高を拾い上げ、宣伝部のコピーライターや伝説のPR雑誌『洋酒天国』の編集長として活躍させた。作家との二足のわらじをはくことも許し、開高は在職中に芥川賞を受賞するのである。その二人の関係について敬三は次のように語った。

「弟じゃあない。弟といってしまうとよそよそしい。それ以上に骨肉に近い、感じです」

サントリーのビール事業進出の意味

敬三が身を置いていたビジネスの世界もまた、人生を賭けた戦いの場と言える。その最たるものは、昭和38年のビール事業進出だった。ビール大手三社(キリン、サッポロ、アサヒ)の壁は難攻不落を誇り、過去の挑戦者はみな野に屍をさらした。敬三は「サントリーオールド」の売上が世界一になろうというときに、ビール事業への進出を決める。これは敬三が「第二の草創期」を導くために下した、断絶の決定と言えるものだった。

サントリーという社名の由来が、ヒット商品である赤玉ポートワインにちなんだ太陽の「サン」と創業家の「鳥井」によるということは有名だ。敬三はまさに太陽のような存在だった一方で、繊脆な一面も併せ持っていたことから、開高と理解し合える部分があったのだろう。高度成長期という混沌と矛盾がまじりあった時代に、彼らは不思議な運命の糸で結ばれていたのである。

ひとつの戦争

父、鳥井信治郎への誓い
Valentyn Volkov/iStock/Thinkstock

昭和35年冬のこと、開高は専務室を軽くノックし、机に座っている敬三のところに向かい、やるんでっかと問うた。ビール市場進出のことだ。敬三は宝酒造がビール市場への参入に失敗した教訓から、隠密作戦でいくと決めていた。宝酒造は寡占三社の壁により認可を先延ばしにされ、参入後も販路の問題や消費者の厳しい反応を受け、七転八倒したあげくに撤退の道を歩んだ。

宝酒造の敗戦が色濃くなっていたときに、敬三は参入を決意したのである。敬三は雲雀丘の邸で静養している、父であるサントリー創業者の鳥井信治郎の枕頭で、その決意と企図をうちあけた。信治郎は、「自分はこれまでサントリーに命を賭けてきた。あんたはビールに賭けようというねンな。人生はとどのつまり賭けや。わしは何もいわない。……やってみなはれ」と言った。

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要約公開日 2015.06.23
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