経済学は、ある希少性が呼び起こすインセンティヴを研究する学問だ。本書では、美貌という希少性に着目して、それが労働やモノの市場にどんな影響を及ぼしているのかを観察する。
その前に、まず、人の美しさを決定づけている特徴とは何か、それについて人びとの意見は一致するのか、ということについて考えねばならない。
本書では、人の美しさを考えるにあたって、ひとまず顔に焦点を当てることとしている。美しさの基準は時代によって変わるが、ある時点のある社会では、美しさを構成する要素についてだいたい意見は一致することがわかっている。ただ、人それぞれに意見があり、唯一絶対の基準はないように見える。
一方、ある人の美しさについて人びとは同じ意見を持つのか、という点に関して、著者はカナダでの調査を紹介する。この調査では、数年おきに同じ人を面談し、美しさを5段階評価で評価する。評価する側の人は毎回変わる。すると、となりあった年の評価の差を比べると、女性も男性も54%がまったく同じ評価を得ており、評価の差が1点を超えた人は男性3%、女性2%しかいなかった。つまり、美しさに関して、人の意見はだいたい一致するということだ。美しいと評価される人はどこへ行ってもだいたい美しいと評価される。だからこそ、美しいという特徴は供給不足であり、希少だといえる。
前述と同じ方法の調査によると、女性と男性では、女性のほうが美しさに関して極端な評価がされやすいことがわかった。「すばらしくハンサムか美人(5点)」、「醜悪(1点)」という評価を受けた人の割合が、男性よりも高かったのだ。
女性たちは、もっときれいになるということに貪欲で、服やヘアカット、マニキュアなどさまざまに投資する。しかし、上海で行われた調査によると、美容にまったくお金を使わない女性が平均的な額を使うようになっても、容姿の評価は3.31から3.36にしか上がらないのだそうだ。かけるお金を増やして得られる効果は、それまで使っていたお金が多ければ多いほど小さくなるという。つまり、私たちは基本的に、もって生まれた顔と一生つきあっていくことになるということだ。
典型的な働き手の場合、美しさはお給料にどれだけ影響するのだろうか。著者は全国的に無作為に収集したデータを使って分析した。データからは、従来の研究から収入を左右することがわかっている要因、たとえば、教育、年齢、健康、人種や民族などの要因を取り除き、容姿のみが収入に与える影響を抽出した。
すると、美人の収入にはプレミアムがつき、醜い人の収入にはペナルティがつくという方向性が明らかになった。男性の場合、容姿が並より良ければ、並の男性よりも4%収入が多く、並より悪ければ、並よりも13%収入が少ない。女性の場合、並より良ければ8%のプレミアム、悪ければ4%のペナルティがつく。
仕事人生全体に照らして試算してみると、美しさが収入に与える影響が実感できる。
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