本書の要点

  • 世界を旅してまわったヒスロデイという架空の人物が、トマス・モアに偶然出会うという設定で物語は始まる。ヒスロデイは、誰もが一度訪れればずっと住みたいと望む、理想的な統治が行われている国、ユートピアについて語り出す。

  • ユートピア人は皆、農業を交代で行い、そのほかに技術的知識を要する仕事を必ず持っている。労働は6時間と定められているが、働かない人はほぼおらず、遊興に時間を浪費しない仕組みなので、国の物資は潤沢にある。

  • ユートピアが貧困とは無縁であり、信じられないほどの豊かさを達成している理由は、物資の共有、貨幣の追放、倫理的暮らしぶりにあった。

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ユートピア国から帰ってきた男、ヒスロデイ

世界中を回った人物との出会い

©iStock/scorpp

イギリス国王ヘンリ8世の命を受けたトマス・モアは、使節としてアントワープに滞在していた。そこでラファエル・ヒスロデイという人物と出会う。彼はアメリゴ・ヴェスプッチの航海に参加していたと言い、ラテン語やギリシア語も堪能であった。新しく発見された国も含む、方々の国を回り、途中ヴェスプッチ船長と別れてまでも各国をまわり続けたという。モアはこの興味深い人物との出会いを喜び、その語るところに熱心に耳を傾けた。

ヘンリ8世治下のイギリス

ヒスロデイはモアの暮らすイギリスも訪問していた。当時のイギリスでは苛酷な法律が施行されており、窃盗を犯した者は死刑に処せられた。だがそれでも盗人は減ることがなかった。法律家がこの厳罰の有用性について熱心に主張する場に居合わせたヒスロデイは、臆することなく法制度への批判を述べたのであった。その内容はこうである。どんなに厳しい罰を科したとしても、生活のために盗みを犯す人を止めることはできない。それよりもそうした貧しい人々の生活を援助することが先決である、と。ここから法律家とヒスロデイの激しい議論が始まり、その場にいた枢機卿も巻き込み、白熱していったという。ヒスロデイによる、イギリスの法制度に関する鋭い指摘を、モアは共感を持って聞いた。

理想の国、ユートピア

モアはヒスロデイの博識と見識に驚き、ぜひどこかの宮廷に仕えるべきではないかと述べた。

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要約公開日 2015.11.30
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