ユートピア

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ユートピア
出版社
岩波書店
出版日
1957年10月07日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

ユートピアという言葉を聞いたことのない人は少ないであろう。しかし、この、今は「理想郷」という意味で使われることの多い有名な語が、トマス・モアによる物語に起源をもつことを知る人はそう多くない。モアが「どこにもない国」の意味として作ったこの言葉は一人歩きし、多くの人々の想像力を刺激してきた。

モアが考えていたユートピアとはどんなものだったのか――読んでいくうちに、それは単なる理想的な国ではないことがわかってくるだろう。

ユートピア国は非常に特殊な政治の仕組みを持ち、人びとの暮らしも他の国々と大きく違う。制度も独特であり、例えば、結婚相手を選ぶときは互いに裸を見せなければならない、といったことが行われている。他にも多くの変わった制度があり、それぞれに理由が説明されている。もちろん中には現代では理解しづらいものも少なくないが、今でも説得力のある説明がなされているものもある。何より、この空想の国のあれこれは、興味深く単純に面白い。

しかし、もちろんこの古典は愉快であるという理由だけで残っているのではない。その背景を知ることでより深く本書の意義を理解することができる。法律を学び、ヘンリ8世の治下で大法官にまで上り詰めたモアが、なぜこのような文章を書くに至ったのか。なぜ論文などではなく物語として書いたのか。それらについて考えを巡らせながら読んでいくと、稀代の思想家が何と闘っていたのかが見えてくる。費やした時間が決して無駄にならない読書が約束されている1冊である。

著者

トマス・モア (1478-1535)
ロンドンにて、高等法院裁判所の判事の家に生まれる。人文主義者が集ったオックスフォード大学を父の希望によって去り、法学院で法学を学ぶ。その頃エラスムスとも出会い、その交わりは終生続いた。モアは法律家として頭角を現し、イギリス王ヘンリ8世の信頼を得る。1529年には大法官の地位に就くが、良心に従って王の離婚を認めなかったことがきっかけとなり、辞職に至る。その後、ロンドン塔に幽閉されたのち、断頭台で処刑された。

本書の要点

  • 要点
    1
    世界を旅してまわったヒスロデイという架空の人物が、トマス・モアに偶然出会うという設定で物語は始まる。ヒスロデイは、誰もが一度訪れればずっと住みたいと望む、理想的な統治が行われている国、ユートピアについて語り出す。
  • 要点
    2
    ユートピア人は皆、農業を交代で行い、そのほかに技術的知識を要する仕事を必ず持っている。労働は6時間と定められているが、働かない人はほぼおらず、遊興に時間を浪費しない仕組みなので、国の物資は潤沢にある。
  • 要点
    3
    ユートピアが貧困とは無縁であり、信じられないほどの豊かさを達成している理由は、物資の共有、貨幣の追放、倫理的暮らしぶりにあった。

要約

ユートピア国から帰ってきた男、ヒスロデイ

世界中を回った人物との出会い
©iStock/scorpp

イギリス国王ヘンリ8世の命を受けたトマス・モアは、使節としてアントワープに滞在していた。そこでラファエル・ヒスロデイという人物と出会う。彼はアメリゴ・ヴェスプッチの航海に参加していたと言い、ラテン語やギリシア語も堪能であった。新しく発見された国も含む、方々の国を回り、途中ヴェスプッチ船長と別れてまでも各国をまわり続けたという。モアはこの興味深い人物との出会いを喜び、その語るところに熱心に耳を傾けた。

ヘンリ8世治下のイギリス

ヒスロデイはモアの暮らすイギリスも訪問していた。当時のイギリスでは苛酷な法律が施行されており、窃盗を犯した者は死刑に処せられた。だがそれでも盗人は減ることがなかった。法律家がこの厳罰の有用性について熱心に主張する場に居合わせたヒスロデイは、臆することなく法制度への批判を述べたのであった。その内容はこうである。どんなに厳しい罰を科したとしても、生活のために盗みを犯す人を止めることはできない。それよりもそうした貧しい人々の生活を援助することが先決である、と。ここから法律家とヒスロデイの激しい議論が始まり、その場にいた枢機卿も巻き込み、白熱していったという。ヒスロデイによる、イギリスの法制度に関する鋭い指摘を、モアは共感を持って聞いた。

理想の国、ユートピア

モアはヒスロデイの博識と見識に驚き、ぜひどこかの宮廷に仕えるべきではないかと述べた。

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要約公開日 2015.11.30
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