本書の前半では、ロボット事業、米国通信事業、国内の通信インターネット事業、エネルギー事業の実態がつまびらかにされている。また後半では、ソフトバンク急成長を支える人脈と幹部たち、孫が尊敬する歴史上の偉人に対する分析、そして孫の生い立ちと絡めた後継者問題といったテーマが並んでおり、孫の人物評や歴史観が垣間見える。
まずは、ロボット事業についてである。2014年6月、ソフトバンクの記者会見に現れたのは、コミュニケーションに特化した人型ロボット「ペッパー」である。孫は高らかに、こう宣言した。「人類史上初めてロボットに感情を与える挑戦をする」。ペッパーは、人工知能(AI)を備え、クラウドを使って感情認識のデータを蓄積する。本体価格は19万5000円という低価格。いきなり量産化を狙う思いきりの良さが孫の真骨頂である。
孫は1981年に会社を設立し、今や一兆円近い営業利益を上げる企業の経営者となった。一代でここまで会社の規模を大きくした現役の経営者は他にいない。日本でインターネットやスマホを普及させ、人々の生活を便利にするきっかけをつくった当の本人である。だが、「多くの人に幸せを感じてもらう」には、ロボット事業しかないと孫は考えていた。
2011年末に静かに始まったロボットプロジェクトでは、孫は開発メンバーに細かい指示を出し続け、ペッパーの声に関しても最後までこだわった。ロボットの感情の認識力を高めるため、発売2カ月前に高性能のCPUに設計変更しろと、開発リーダーの林に厳しい要求を突きつけ、なんとか発売にこぎ着けた。
ユーザーはペッパー購入後に、ロボット用アプリをダウンロードし、カスタマイズしていくという仕組みだ。ペッパー向けアプリ開発コンテストで最優秀賞に輝いたのは、高齢者との対話を通じて認知症の進行を遅らせるアプリだった。林は「何もできないロボットが人々を幸せにする可能性がある」と語った。
孫は、当面は赤字でもプラットフォームをつくるという戦略に立っている。社名のソフトバンクという名の通り、世界中の知恵と知識を集めて、各々のロボットを巨大な情報端末にするという構想を描いている。
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