流行に左右されず、シンプルで機能的な「MUJIデザイン」を貫く商品群が生み出される背景には、聞きなれない「アドバイザリーボード」という仕組みがあった。アドバイザリーボードとは、「ブランドコンセプトを維持するために外部のデザイナーで構成された組織」だという。現在はグラフィックデザイナーの原研哉氏、クリエイティブディレクターの小池一子氏、プロダクトデザイナーの深澤直人氏、インテリアデザイナーの杉本貴志氏の4人で構成されている。
無印良品を展開する良品計画では、代表取締役会長・金井政明氏を筆頭に幹部社員と先の4人が月一回「アドバイザリーミーティング」を開催し、忌憚ない意見をフランクに話し合うという。意思決定を行う場ではなく、これから無印良品が目指すべき未来の空気感をゆるく共有することが目的であり、この「空気」が企業経営の3カ年商品計画や年度計画等に反映されるというのだから面白い。
そして、無印良品の商品開発プロセスは特徴的で3回の「サンプル検討会」が開催されている。1回目は品ぞろえや商品構成、考え方の確認で絵コンテや説明のみの場合も。2回目は発泡スチロール模型等で具体的なデザインに着手し、3回目で量産に向けて図面に落とし込む段階へ進むのだ。
他にも本格的に取り組みが開始された「オブザベーション」では、開発スタッフが実際の生活の場を訪問してモノの使用方法を観察するという。加えて、店舗からは「顧客視点シート」、WEBを通して意見や要望を集める「くらしの良品研究所」、問い合わせ窓口の「お客様室」、各種リサーチにモニター調査など、あらゆる手を尽くして顧客のニーズを吸い上げる工夫を凝らしている。そのようにしてでき上がった商品は、MDS(マーチャンダイジング・ストラテジー)という会長と幹部、部課長の集まる社内会合で初披露され、最終的なゴーサインが下されるのだ。
各専門分野を持つ4人の中で、家電や生活雑貨と主とするプロダクトデザインには深澤直人氏が関わっている。彼は1996年にIDEO東京支社長を務め、2003年にNAOTO FUKASAWA DESIGNを設立。グッドデザイン賞審査委員長や日本民藝館5代目館長の経歴も持つ。そんな彼は良品計画で3つの役割を担っている。1つ目がアドバイザリーボードのメンバーであること、2つ目がプロダクト全体のデザインディレクション、3つ目は商品自体の具体的なデザインの提案である。
無印良品は2014年3月から新しいラインナップのキッチン家電を次々発売している。開発のスタートは2012年の冬で、冷蔵庫再販売の強い要望がきっかけだったという。深澤氏は「家電の高機能化はメーカーもユーザーも幸せにしない」、「価格競争に陥るなら、無印良品が家電を手掛ける意味はない」と言い切る。
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