大阪大学を卒業後花王に入社した澤田は、化学品研究、素材開発研究を経て、主力品である家庭品の商品開発部隊を率いる立場となった。しかし当時、主力商品の紙おむつ「メリーズ」は販売不振が続いており、事業を継続するか否かの岐路に立たされており、担当のサニタリー研究所でも、不協和音が生じていた。
改革のために、澤田はみんなのやる気を引き出すことに心を砕いた。その1つが全員面談である。研究所で働く130人全員との面談は半年がかりの取り組みとなったが、時間をかけた分大きな成果が得られた。各人の持つポテンシャルに光を当てることができたのだ。
たとえば澤田は、修士・博士卒の社員と比べて、自分は優れていないと思い込む高卒・短大卒の研究者に対して、「あなたもすごくレベルの高い仕事をしている」と本心から称えた。製品プロトタイプ作りが得意な社員には、手作り試作の技術をほかの人に伝えてもらうリーダーの役割を与え、その作業の重要性を示した。自分では気づかない優れたところを認め、伝えることは非常に大切なことだ。全員とのこうした面談を終えた時点で、研究所全体のモチベーションが上がり、雰囲気が変わったように感じられた。
こうして生まれ変わった組織に対し、「日本でナンバーワンのおむつをめざそう」という目標を掲げ、「メリーズ」の大改革を進めた。製品だけでなく全プロセスを一から見直し、「肌への優しさ」の追求という花王の原点に立ち返った新たな「メリーズ」を開発、市場に再投入したところ、商品は実際に育児雑誌でナンバーワンに輝く。それをきっかけに人気が急上昇し、「メリーズ」は今では花王を支える一大商品に成長した。
マネジメントとして何よりも大切なのが、メンバーそれぞれに活躍のための大きな舞台を用意することだ。人が人を育てるのではなく、人は育つと考えることが重要である。自分の可能性は結局、自分で切り開いて行かなくてはならない。リーダーはそのための場を与え、たとえ思うように伸びなかった場合でも、そこまでだと見切ってはいけない。違う場を与えたり、ひと声かけたりすれば、
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