兵法書にもかかわらず、『孫子』には勇気を鼓舞するような言葉は出てこない。「不敗」=負けないことを最重要と考えていたため、100%勝てるときだけ戦い、そうでないときは逃げることに専念するよう説いている。不利な状況時のがむしゃらな勇気は敵の餌食になるだけという考え方だ。現代でも、賭け事で不利な状況なのに大金をつぎ込んだり、自転車操業で借金を重ねたり、終わった恋なのにしがみついたりするなど、やめる決意、つまりは戦いをやめる勇気が持てずに負けるのである。
「優れた定石(勝つ方法)を持つ」ということにも言及している。人間はだれでも自然体でいること、ありのままでいることに心地よさを感じるかもしれない。しかし、物事には「定石」がある。よい定石を学んで覚えた人は、オセロなどのゲームでも勝ちやすくなる。頭脳が優れた人でも定石を知らなければ、定石を知る凡人に負けるのである。ありのままが好きな人は学ぶことをしないが、それは負ける生き方なのだ。
受験勉強、大学生活、就職活動、恋愛、結婚、子育て…。もし、何か新しいことを始めるなら、それをあなたの敵と一度捉えれば、目指していることを成就することが敵に勝つことだ。そのためには、敵の情報をすべて集めなくてはならない。
「敵も自分も知れば敗れることはない。自分を知って敵を知らなければ勝負は五分五分。敵も自分も知らなければ必ず敗れる」のである。自分が新たに取り組むことのすべての情報を集めているだろうか。自分を知ることは難しいかもしれないが、敵を知ることは難しくない。
情報の中でも、特に失敗談を集めることが重要である。大きな勝利は運命で決まることが多く、完全に操ることはできないが、すでに他人がした失敗は避けることができるからだ。成功からよりも失敗から学ぶことが多いのである。
『孫子』は多くの古代の戦いを研究して生まれており、特に「負け」についての分析が鋭い。
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