優れた経営が行われている会社は、経営チームに複数の人が参画しており、互いが協力して経営にあたっている。一方、社長が一人で経営を担当している会社に、大きな成長を見込むことはできない。経営者がやるべき仕事は数え上げればきりがなく、到底一人でこなせる量ではないからだ。
経営チームを持つと、複雑かつ大量にあるマネジメント業務に対応することができるようになる。また、一人の限られた意見だけに頼ることなく、客観的なフィードバックを得たうえで意思決定を下すことが可能になる。だからこそ経営者は、まず経営チームづくりに着手しなければならない。
しかし、経営チームをつくることは、自分の右腕となる人物を用意するということではない。なぜなら、どんなに優れた右腕を育てたとしても、あくまでそれは補佐役にとどまるからだ。トップの人物の重荷が軽くなるわけではないのである。
経営チームは商品開発、マーケティング、財務、人事といった、異なる専門分野のエキスパートで構成し、それぞれの専門領域については責任を一任するべきである。
互いの立場を尊重しつつ、共通の考えを導きだして物事を進めるには、かなりの時間がかかる。経営陣が一枚岩として動くようになるためには3年はかかると見たほうがいいだろう。だからこそ、一刻も早く経営チームづくりに着手しなければならない。
経営チームを運営するうえで大切なのは、それぞれの責任と権限を明確に定めておくことである。そして、一度決定権を与えたのであれば、社長といえどもその決定を支持しなければならない。もし社長が経営チームメンバーの決定を蔑ろにしてしまえば、その下の人々は社長の意見にのみ従うようになってしまう。一つの部門につき、意思決定を下す人はあくまで一人に定めるべきだ。
また、経営メンバーは、自身の担当する部門の中でも、自分が判断を下す領域を明確に定めておいたほうが好ましい。様々な案件が経営チームのもとにやってくるようになると、経営チームが単なる了解を出すための機関になってしまうからである。現場で判断するべきことと経営チームで判断するべきことを見極めておかないと、組織はやがて機能不全に陥ってしまう。
経営メンバーは一人ひとりの担当領域を設けて、分業体制をつくらなければならないが、同時に経営チームとしては一枚岩の集団として互いに協力していく必要がある。経営会議で決まったことに対して、あとで不満を述べたり、陰で批判しあったりということがあってはならない。
経営チームをうまく機能させるためには、率直に意見を交換する必要がある。重要な決定については、全員で意思決定をするよう努めなければならないし、対立する意見を真っ向からぶつけあうことを経営チームは避けてはいけないのである。
伸びている会社というのは、本音で議論を行っており、決して他のメンバーへの陰口など言わないものだ。会社をより良いものにしたいのであれば、あくまで正面から議論を重ねることで、共通の認識をつくっていくべきである。
そして経営チームを率いるリーダーの仕事は、異なる領域のプロフェッショナルたちの力を最大限に活かし、より良い方向へ導くことである。一人の経営者がすべてを知っている必要はない。それぞれが自分の得意とする仕事だけに集中できる環境が、企業の成長をうながすのである。
昇進の条件は実績を基準に考えるべきだが、大事なのは何を実績と見なすかだ。部下を持つ人であれば部下を成長に導く能力を、市場を新たに開拓する人であれば戦略を打ち立てる能力を、組織を預かる人であれば組織を通じて成果をあげる能力を、それぞれ実績として評価するべきである。
ただ、いずれの場合であっても、人間性を判断基準から外してはならない。ドラッカーはこのことを「真摯さの欠如だけは許さない」と表現した。真摯さの欠如した人というのは、人の強みよりも弱みに目がいく者、何が正しいかよりも誰が正しいかに関心を持つ者、人格よりも頭のよさを重視する者、有能な部下に脅威を感じる者、自らの仕事に高い基準を設定しない者である。これらに当てはまる人を昇進させてはいけない。
経営チームに昇格させてよいのは、部下に対する規範となる人格を持つ者だけだ。会社の文化は、経営者の言葉と振る舞いによってつくられていくものである。真摯さに欠いた人物を昇進させてしまえば、会社の歯車が狂ってしまうことになりかねない。
事業をうまく進めるためには、専門性の高い人材だけでなく、その専門家たちを率いる経営人材の両方を育成しなければならない。経営人材を育てなければ、その会社は間違いなく衰退してしまうだろう。
経営人材の育成はあらゆる組織にとって重要な課題であると同時に、極めて緊急性の高い仕事だ。しかし、経営者の分身をつくるのではなく、その人の一番いいところを引き出すように育成するよう心がけるべきだ。経営者と同じタイプの人材に仕立てあげようとしても、結局はその劣化コピーにしかならないからである。
人材が育つか育たないかはすべて、経営者の姿勢にかかっている。たとえば、「部下をどれだけ育成したか」を評価基準に加えるだけでも、社員の部下育成への関心は大きく上がる。また、自分の部下に対してもなるべく責任のある仕事を任せるようにしたほうがよい。自ら動くことができる環境でこそ自立性は生まれる。部下を成長させるためには、一人だけ仕事をかかえずに、積極的に自分の仕事を移すべきである。
経営チームは経営の根幹に関わる方針について、共通した見解を持っている必要がある。そうでなければ、重要事項を決定することは困難だからだ。
根幹となる価値観を固めていくために、経営チームは互いの価値観を話し合い、共通の考えを作り出していかなければならない。ドラッカーは、(1)「われわれの使命はなにか」、(2)「われわれの顧客は誰か」、(3)「顧客の価値は何か」、(4)「われわれの成果は何か」、(5)「われわれの計画は何か」という、「最も重要な五つの問い」を投げかけることで共通認識を育むべきだと提案している。
まずわれわれの使命についてだが、事業は社会に貢献するための手段であり、使命感にもとづいて生まれたものということを共有しなければならない。自分たちの使命を確認することは、自分たちの事業を理解することである。自分たちの事業を理解しない人は、情熱をもって仕事を成し遂げることなどできない。
使命を確認したら、次は誰を顧客とした事業なのかを明確に定めるべきである。目標とする顧客が曖昧なようでは、使命に対する情熱もいずれ消え失せてしまう。誰を対象にした事業なのかをはっきりさせることで、自分たちが何をやるべきなのかを浮き彫りにすることができる。
ターゲットが決まった後は、その顧客が何を望んでいるか、そのすべてを知り尽くさなければならない。そうすることで、はじめて自分たちがどのように仕事を進めるべきなのかが見えてくる。また、現在の顧客だけではなく、未来の顧客についても考えておくべきだ。なぜなら潜在的な顧客のほうが、圧倒的に多いからである。
顧客のニーズをつかんだら、何を自分たちの成果にするのか判断する必要がある。売上げだけを成果にしてしまうと、社員は売上げのことしか考えなくなってしまう。しかし最も大事なのは顧客であり、顧客のためになることをして初めて成果と言えるのである。
最後に、自分たちの成果を定めた後でようやく、計画を立てる段階に入ることができる。計画を立てるとは、つまり「事業を底上げするための目標を立てる」ということだ。マーケティング、イノベーション、人材、経済的資源、物的資源、生産性、社会的責任、利益……それぞれの目標を明確に定めることによって、経営チームとしての強い基盤ができあがるのである。
経営計画を立てるうえで最初にやらなければならないのは、「何をやめるか」を決めることである。事業を絶えず進化させていくためには、常に新しい計画を立てていく必要があるが、時間がないという理由で、多くの計画は実行されないのが現状である。「明日を実現するための第一歩が、昨日を廃棄することである」とドラッカーが語っているように、何かを始めるためには、まず古いものを終わらせなければならない。
意図的に新しいことに挑戦する状態をつくりださなければ、前例を踏襲するだけのマンネリ化した仕事しかすることができなくなってしまう。継続的に成長していくためには、これまでの成功体験だけに固執せず、変革に踏み切らなければならない。数年ごとに現在の事業を見直す機会を設けて、これまで行ってきたことが現代に通用しないと判断したのなら、すぐにそれを止めるという決断に踏み切るべきだ。
目標への進捗状況を把握していなければ、どのような対策を取るべきか、判断することはできない。マーケティング、イノベーション、人材、経営的資源、物的資源、生産性、社会的責任、利益という8つの領域それぞれに目標を設け、経営チームのメンバーはそれぞれの目標を達成するよう努めるべきである。
このうち、マーケティングとイノベーション領域は特に重要である。なぜならどちらの領域も顧客を理解し、そのニーズに応えることを至上命題としており、そのために何をするべきなのかという全体の方針に直結するからだ。
それぞれの領域における目標が定まったら、今度は組織全体の目標と、社員の個人目標が同じ方向を向いているかを厳重にチェックしたい。「もっとプレゼンがうまくなりたい」「マーケティング力を高めたい」といった勝手目標を容認してしまっているようでは、組織はやがて低迷してしまう。組織全体の目標の方向性と合致するように、個人目標を設定させるべきである。
一方で、個人目標を管理するのは他人ではなく、その本人でなければならない。上司に監視され、間違いや失敗が許されないという環境では、人は挑戦を躊躇ってしまう。経営者の仕事は、一人ひとりが新しいことに挑戦する状態をつくることである。挑戦する力を高めるために、「目標による自己管理」を徹底させるべきだ。
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