「本業」には2つの意味がある。ひとつは「売上と利益が最も多い事業」、もうひとつは「創業時からの事業」だが、経営の場で使われる場合は後者を指すことが多い。しかし市場環境や顧客ニーズが激変する中、「創業時からの事業」に固執して会社を維持、発展することができるのか。よく「新規事業はリスクが高く、既存の事業はリスクが低い」と考える人がいるが、著者はこれに異を唱える。市場や顧客ニーズが変化する中で、「ニーズに応じて変化しないことが最大のリスク」なのである。著者が考える「本業」とは、これからも利益があがり続ける事業のことである。
ドラッカーは著書『創造する経営者』の中で次のように述べている。「専門化と多角化に関連がなければ、生産的とはいえない。専門化だけでは個人営業に毛が生えた程度で、一人の人間が死ねば消滅する。しかし専門化せず、卓越性もなしに多角化しているだけでは、マネジメントできなくなる。推奨するのは選択と集中(専門化)を前提とした多角化である」。ドラッカーの指す多角化とは、自社の強み(ノウハウ)と共通の技術か共通の分野への進出であり、これを「選択と集中」と表している。
「選択と集中」の判断基準になるのが「事業の定義」(事業領域の決定)と「強みの定義」である。例えば同じフィルム会社でも、事業領域を「写真フィルム」としたコダック社はデジタル化の環境変化に対応できず倒産の道を辿った。一方、「フィルムと光学」を選択した富士フィルムは2つのノウハウを生かせる事業に集中し優良企業として存続している。
また「強み」とは、「差別化を生み、利益をあげるノウハウ」のことであり、強みを定義することで、「事業展開の核」が決まり「進出可能な事業範囲」も同時に定まる。
現在の主力事業の強みを発展させて多角化しようとするとき、いくつかの方向性が考えられる。本書では「市場」「技術」と「既存」「新規」の2つの軸を組み合わせた、4つの多角化戦略に分類されている。すなわち「細分化による多角化(既存市場に既存の技術で多角化する)」、「商品開発による多角化(既存市場に新規の技術で多角化する)」、「市場開拓による多角化(新規市場に既存の技術で多角化する)」、「飛躍による多角化(新規市場に新規の技術で多角化する)」である。
ほかにも、多角化した事業からさらに展開を広げる方向、現在の事業を川上や川下へ展開していく方向など、その可能性は多様に広がっている。
事業の多角化をすすめる前に、プランの全体像を描く必要がある。いつまでにどの程度まで到達するかの目標を設定し、「ビジョンを描く」。次に市場全体をとらえ、市場を細分化し、市場全体の中での位置づけ、特徴づけをすることにより「経営方針を定める」。そして、
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