稲盛氏は、「私の言葉にはエネルギーや魂があってそれが飛び交う」と言う。上司からの声かけは、部下の脳とモチベーションに大きな影響を与える。
ある研究で、部下と仲が悪く、やる気をなくさせるリーダーとの嫌な経験を思い出すと脳の2つの部位が不活性化することがわかった。エラーの検出にも関わる部位の働きが鈍くなり、難易度の高い課題を解くときにミスしやすくなった。同時に、過去の成功体験をイメージする部位の活動も鈍くなり、自信も失う状態に陥った。
一方、部下と心を通わせ、やる気を高めてくれるリーダーとの嬉しかった経験を思い出しているときは、希望や慈しみ、快活さなどの感覚や成長意欲を引き起こす脳の回路が活性化した。
「お客様や取引先はもちろん、職場の仲間、家族といった周囲の人々の支援があるから、私たちは存分に働ける」と稲盛氏は言い、社員への感謝の気持ちを表すことを大切にしている。米国ペンシルバニア大学のグラント博士らの大学の職員を対象にした研究によると、上司が部下に仕事の意義を説き、感謝の気持ちを伝えることで部下が「自分は社会の役に立っている」と感じ、仕事の成果にもつながるという結果が出ている。
米国国立衛生研究所のザーン博士らの研究から、リーダーの感謝の気持ちが深くなると、メンバーのやる気を引き起こす脳内物質ドーパミンの放出量が増加することが分かっている。リーダーが「今あること・生きていることに感謝」という気持ちで過ごし、メンバーに感謝の気持ちを伝えると、働く人たちの成長意欲が高まり、一体感が生まれる。
受け身のメンバーには、リーダーから積極的に「あいさつ」や「簡単なねぎらい」をし、小さなことにも「感謝の気持ち」を表す。その際、本当に深い感謝を感じながら言い続けるとメンバーから積極的な発言が出て前向きな取り組みが促せる。
稲盛氏は、「企業内では、お互いを知り合うことが信頼関係の始まり」と言う。米国ノースキャロライナ大学のグラント博士の調査によると、リーダーへの信頼度が高いと仕事の成果が高く、信頼は部下の仕事のパフォーマンスに関係がある。
脳科学的に信頼は脳内物質のオキシントンから作られることがスイスのチューリッヒ大学のバウムガートナー博士の研究からわかっている。脳内オキシントンの濃度が高くなると、他人を信頼する行動をとるようになる。また、恐怖心を引き起こす扁桃体の活動を抑えることで挑戦する気持ちが起こりやすくなる。脳内物質のドーパミンの効果を増やし、モチベーションを高める効果もある。
稲盛氏は「信頼関係は自分自身の心の反映で、自分の心が相手の信頼に値するか、そうでなければ自分の態度を改めなければ信頼を築くことができない」と説く。他人から見て「公平」「公正」「正義」「努力」「勇気」「博愛」「利他」「謙虚」「誠実」「感謝」「反省」が自分にあるか省みることが信頼を生む。
米国ハーバード大学のタミール博士らによれば、人は他の人の話を聞くより、自分が話をするときのほうが気持ちを前向きにしたり、やる気を起こさせたりする脳の「モチベーション回路(報酬系回路)」が2~3倍活性化するという。つまり、聞くより話すほうが脳は快く感じる。
金銭的な報酬をもらうときにもモチベーション回路が活性化するとわかっており、自分の話をすると、脳がお金をもらうのと同様の嬉しさを味わっていることがわかっている。
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