なぜ稲盛和夫の経営哲学は、人を動かすのか?

脳科学でリーダーに必要な力を解き明かす
未読
なぜ稲盛和夫の経営哲学は、人を動かすのか?
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なぜ稲盛和夫の経営哲学は、人を動かすのか?
出版社
クロスメディア・パブリッシング
出版日
2016年03月21日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

稲盛和夫氏と言えば、京都セラミック(現在の京セラ)と第二電電(後に2社と合併した現在のKDDI)の創業者であり、会社更生法が適用されたJALをわずか2年で立て直した経営者である。その経営の根底には、稲盛氏独自の経営哲学があることは広く知られている。

稲盛氏の経営哲学は思想や精神論に近いもののようにも感じられる。もちろん、京セラや第二電電で用いられていた、企業の人員を6~7人の小集団(アメーバ)に組織して時間当たり採算の最大化を図る「アメーバ経営」のような戦略的手法も考案・実践しているが、企業集団で取り組むすべてに関わることとして、働く人間はどうあるべきかということを稲盛氏は説き続けている。これが、その経営手法が「稲盛教」とも呼ばれるゆえんであろう。

そうした稲盛氏の経営哲学を脳科学と結び付けたのが本書である。経営者の名言の解説は、通常、精神論的であったり感情で理解したりするものが多いが、本書のように脳の働きとリンクさせると、「その考え方、行い方は正しい」という裏付けにもなり、非常に説得力がある。特に参考にしたいのは、上司の部下への接し方である。上司の立場にいる人であれば、部下のやる気や仕事の成果がふるわない原因がよくわかるだろう。逆に言えば、本書にある手法を参考にすれば、部下を成長させられるのだ。もちろん、そのためにはうわべの言葉だけでなく、心から部下に感謝したり、褒めたりしなければならないと稲盛氏は説く。やはり、最後は「心」が大事なのである。

ライター画像
原ユキミ

著者

岩崎一郎(いわさき いちろう)
脳科学者・医学博士。国際コミュニケーション・トレーニング株式会社代表取締役。京都大学卒業後、米国ウィスコンシン大学大学院で博士号取得。通産省主任研究官、ノースウェスタン大学医学部准教授を歴任。脳細胞の神経伝達の研究に従事する一方で『稲盛哲学』の実践が人生を好転させることを経験し、脳科学的裏付けを行う。『集合知性』が社員の能力を最大限に引き出すという信念の下、帰国後、『心のかよい合うコミュニケーション』を支援する会社を設立。リーダー養成・チームビルディング・フィロソフィ浸透などの講演・研修・コンサルティングを提供。

本書の要点

  • 要点
    1
    上司が部下に対して感謝の気持ちを心から伝え、お互いのことを良く知り、部下の話を上司がよく聞くようにする。こうすることで部下との間に信頼関係が生まれ、仕事の成果も上がる。
  • 要点
    2
    「自分を犠牲にしても他の人を助けよう」とする利他の心で判断すると、まわりがみんな協力してくれて視野も広くなり、正しい判断ができる。
  • 要点
    3
    誰かの役に立っているという仕事の意義を知ること、小さな成功体験を積んでいくことで、仕事に対するモチベーションが高まっていく。

要約

部下との信頼関係を築く

リーダーの言葉が部下の脳に影響する

稲盛氏は、「私の言葉にはエネルギーや魂があってそれが飛び交う」と言う。上司からの声かけは、部下の脳とモチベーションに大きな影響を与える。

ある研究で、部下と仲が悪く、やる気をなくさせるリーダーとの嫌な経験を思い出すと脳の2つの部位が不活性化することがわかった。エラーの検出にも関わる部位の働きが鈍くなり、難易度の高い課題を解くときにミスしやすくなった。同時に、過去の成功体験をイメージする部位の活動も鈍くなり、自信も失う状態に陥った。

一方、部下と心を通わせ、やる気を高めてくれるリーダーとの嬉しかった経験を思い出しているときは、希望や慈しみ、快活さなどの感覚や成長意欲を引き起こす脳の回路が活性化した。

部下に感謝の気持ちを伝える
Purestock/Thinkstock

「お客様や取引先はもちろん、職場の仲間、家族といった周囲の人々の支援があるから、私たちは存分に働ける」と稲盛氏は言い、社員への感謝の気持ちを表すことを大切にしている。米国ペンシルバニア大学のグラント博士らの大学の職員を対象にした研究によると、上司が部下に仕事の意義を説き、感謝の気持ちを伝えることで部下が「自分は社会の役に立っている」と感じ、仕事の成果にもつながるという結果が出ている。

米国国立衛生研究所のザーン博士らの研究から、リーダーの感謝の気持ちが深くなると、メンバーのやる気を引き起こす脳内物質ドーパミンの放出量が増加することが分かっている。リーダーが「今あること・生きていることに感謝」という気持ちで過ごし、メンバーに感謝の気持ちを伝えると、働く人たちの成長意欲が高まり、一体感が生まれる。

受け身のメンバーには、リーダーから積極的に「あいさつ」や「簡単なねぎらい」をし、小さなことにも「感謝の気持ち」を表す。その際、本当に深い感謝を感じながら言い続けるとメンバーから積極的な発言が出て前向きな取り組みが促せる。

信頼できるリーダーの下で能力を発揮

稲盛氏は、「企業内では、お互いを知り合うことが信頼関係の始まり」と言う。米国ノースキャロライナ大学のグラント博士の調査によると、リーダーへの信頼度が高いと仕事の成果が高く、信頼は部下の仕事のパフォーマンスに関係がある。

脳科学的に信頼は脳内物質のオキシントンから作られることがスイスのチューリッヒ大学のバウムガートナー博士の研究からわかっている。脳内オキシントンの濃度が高くなると、他人を信頼する行動をとるようになる。また、恐怖心を引き起こす扁桃体の活動を抑えることで挑戦する気持ちが起こりやすくなる。脳内物質のドーパミンの効果を増やし、モチベーションを高める効果もある。

稲盛氏は「信頼関係は自分自身の心の反映で、自分の心が相手の信頼に値するか、そうでなければ自分の態度を改めなければ信頼を築くことができない」と説く。他人から見て「公平」「公正」「正義」「努力」「勇気」「博愛」「利他」「謙虚」「誠実」「感謝」「反省」が自分にあるか省みることが信頼を生む。

距離を縮めるコミュニケーションとは
monkeybusinessimages/iStock/Thinkstock

米国ハーバード大学のタミール博士らによれば、人は他の人の話を聞くより、自分が話をするときのほうが気持ちを前向きにしたり、やる気を起こさせたりする脳の「モチベーション回路(報酬系回路)」が2~3倍活性化するという。つまり、聞くより話すほうが脳は快く感じる。

金銭的な報酬をもらうときにもモチベーション回路が活性化するとわかっており、自分の話をすると、脳がお金をもらうのと同様の嬉しさを味わっていることがわかっている。

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要約公開日 2016.09.26
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