盛和塾は、稲盛和夫氏(京セラ名誉会長、KDDI最高顧問、JAL名誉会長)が主宰する経営塾だ。1983年に発足し、多くの中小企業経営者がここで学んできた。特に、巨額の負債を抱えて経営破綻した航空会社、日本航空(JAL)を2年8か月の短期間で見事、再上場させた稲盛氏の手腕が改めて評価され、「稲盛経営」を学びたいという経営者が増えているという。
本書は3章構成になっており、1章は稲盛氏本人、2章はこの盛和塾生7人の話が登場する。それらを受けて、「経営者とは何か」について述べた3章に続く。この本がユニークなのは、「経営とは」ではなく「『経営者』とは」という命題を扱っている点だ。稲盛氏が説くリーダーシップ論は非常に哲学的だ。まずはその経営哲学について見ていきたい。
稲盛氏は本書の中でまず、今の日本の低迷ぶりはリーダーに責任がある、と喝破する。
まずは哲学的思考。稲盛氏は幼少期に結核にかかり、大学受験では第1志望の大学に落ち、就職も思い通りにならなかった。しかしそうした過酷な環境を乗り越えるために自分自身を鍛えることができ、立派な哲学を身に付けることができたのだ。
稲盛氏よりも20歳年下の、今60歳くらいの世代の人になれば、青年時代はもっと社会が安定し、経済も良くなっているため、頭が良くて優秀であればいい大学に入れ、卒業後はいい会社に入れただろう。しかし苦難に遭遇していないため、確固とした素晴らしい人生観、価値観を持って「こういう生き方をすべきだよ」と部下に説ける人は皆無になってしまっているのではないか。
稲盛氏はこう結んでいる。「もし今、大変厳しい状況にあるのであれば、それを真正面から受け止めて、自分の成長を促していく大きな栄養剤だと思って、誰にも負けないほど必死に努力するべきだと思います。日本の経営者、特に大企業の経営者はこうした哲学的なものが欠落していることが、日本企業の停滞をもたらしている要因だ」と。
もう一つ、経営者に足りないと稲盛氏が説いているのは「強い意志」だ。景気は良かったり悪かったりすることが普通なのに、メディアがつくるムードに影響を受けて、多くの経営者が「経済環境が良くない」と言い訳をしてしまっている。先が見えないなら見えなくても良い、なぜ今必死に頑張らないのか。
まずは社長が頑張る。もちろん一人ではやっていけないので、従業員が同じ気持ちになってくれるように仕向ける。これが特に中小企業において大事なことである。稲盛氏自身、京セラを設立した目的は当初は「稲盛和夫の技術を世に問うこと」であったが、それは従業員の喜びの後についてくるものだと思い直し、会社ができて3年目に「全従業員の物心両面の幸福を追求する」という企業理念を掲げたという。
これはJALの再建でも同じで、従業員が経営陣に対して疑心暗鬼になっていたところに、稲盛氏が「従業員を幸せにするため」に経営をすると宣言したおかげで、従業員が「JALは自分たちの会社だ」と思うようになり、必死に頑張るようになった。
JALの再建には不屈不撓の一心で、矢が降ろうとも何が降ろうとめげない、という強い意志を持って臨んだ。しかし、そういうものが大企業の経営者にはない、と稲盛氏は嘆く。不景気や技術力のなさを言い訳にして、歯を食いしばって必死にやるということを怠っていることこそが、今の日本の低迷ぶりを招いているのである。
第1章で稲盛氏が語った「経営者がどんな考え方、哲学を持たなくてはいけないか」を教えるための、経営者育成学校。それが盛和塾だ。第2章では、その盛和塾で門下生である経営者が、稲盛氏にどのような教えを授けられ、どのようにその経営手腕を昇華させていったかが描かれている。
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