フジテレビの大きな特徴は「仲間意識の強さ」にあったといえる。たとえ別の部署の人間同士であっても、互いを大切にすることが行動規範として認識されており、できるだけ助け合うことが美徳とされていた。一般的なフジテレビのイメージである「明るさ」「楽しさ」も、この仲間意識の強さに起因していると見ていい。
さらに、フジテレビは強烈な個性を持つ人々を受け入れる懐の深さも持ち合わせていた。たとえば、『めちゃ×2イケてるッ!』のプロデューサーである片岡飛鳥氏は、社内制作スタッフが集まる会議などに出席しないことで有名だったが、才能豊かなスタッフだからという理由で黙認されていた。だからこそフジテレビは1980年代、視聴率の王者であり続けたのだ。
このようなフジテレビの社風は、1959年の開局当時からあったものではなく、80年代以降に培われたものである。1970年代、フジテレビの社員たちは相互不信に陥り、暗黒時代に突入していた。これは悪名高き「70年改革」の結果である。1970年、フジテレビは制作部門のほとんどをプロダクション化し、制作部門においた約150人の社員のほとんどを各プロダクションに移した。この組織改革の目的は、制作部門を社外へと切り離すことで、競争原理を導入して職場の活性化を狙うとともに、社員とは異なった賃金体系をプロダクションに設定することで、コスト削減を徹底することであった。
だが、この人事異動により、編成というテレビ局の「頭脳」と、制作という「身体」は切り離され、その間に深い溝が生まれてしまった。また、経営管理の方法が独立採算になったことから、プロダクション側は赤字を出さないよう、リスクのある企画をしなくなってしまい、視聴率が見込めるであろう「守り」の姿勢に入った番組ばかりが制作されるようになる。これに危機感を抱いた経営サイドは現場に介入しはじめるようになり、それが制作側の更なるモチベーション低下を招くという負のループが形成されてしまった。
1980年、組織の構造的な問題を解決しようと、新たな改革が断行された。これが「80年改革」である。(1)明るい職場づくり、(2)制作体制の整備(制作局の新設)、(3)人材の再配置が目標として掲げられ、「70年改革」でモノづくりへの意欲を失ってしまった社員を再び活性化させる環境づくりを急いだ。
3,400冊以上の要約が楽しめる