一般的に、人々は買い物や取引をする際、価格を見比べて損得を判断しがちである。「こちらのほうが価格が安いからお得だ」とか「あっちのほうが値段が高いから、価値も高いに違いない」というように、価格同士の比較が価値判断の基準となっている。だが、価格だけを見比べても正しい判断はできない。正しく意思決定をするためには、そのモノの持つ本当の価値を明らかにしなければならない。これがファイナンスの考え方である。
1つ例を挙げよう。2008年のリーマンショック直後、世界中のほぼすべての株価が下落してしまった。この急落に恐れをなした投資家たちは、次々と手元の株式を売り払った。そんな中、世界一の投資家ウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイ社は、ゴールマン・サックス・グループが発行した優先株式と新株予約権を、無謀にも一手に引き受けた。その後、ゴールドマン・サックスの株価は回復し、バフェットは優先株の投資では16.4億ドル、新株予約権では13億ドルという巨額の利益を手にした。バフェットにとって、リーマンショック直後のゴールドマン・サックスの株価は本来の価値よりも低いものに映っていた。だからこそ、世界中でパニック売りが行われる中で、1人だけ「買い」という選択をしたのだ。
価格という目に見えるものにどうしても人はとらわれがちになるが、正しい意思決定は「価格と価格」を比較する視点ではなく、「価格と価値」の両方を見渡す視点からしか生まれない。このように、ファイナンス思考の第一原則は、価格と価値を分けて考え、価値の見極め(価値評価)に軸足を移すことなのである。
価値の考え方は、大きく分けて3つある。コスト・アプローチ(原価法)、マーケット・アプローチ(取引事例比較法)、そしてファイナンスだ。
コスト・アプローチとは、それにかかった費用の総和で値段を決めるという思考法である。たとえば銀座にあるカフェのコーヒーの値段が高い理由について、コスト・アプローチは銀座の地価の高さをその要因として挙げる。「地価が高いため家賃も高くなり、カフェの運営コストも高くなる。だから必然的にコーヒー1杯の値段も高くなる」というわけだ。
しかし現実問題として、世の中にあるものの大半の値段は、コストだけで決まっているわけではない。
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