コーヒーの原料は「コーヒーノキ」というアカネ科の植物の種子である。花が咲いたあと赤や黄色の果実ができる。その中に果皮や果肉があり、さらに粘性のある果肉層や薄い殻などに覆われるかたちでコーヒーの種子、いわゆる「生豆」が入っている。農園で収穫された果実から生豆を取り出し(精製)、乾煎りして水分を飛ばす「焙煎」を経て、細かく砕いてコーヒー豆の成分を水やお湯に「抽出」することで、私たちが普段飲んでいるコーヒーとなる。コーヒーノキは元々アフリカ大陸と南・東南アジアに自生していたものが世界中に広がり現在では125種が知られている。しかし飲用のコーヒーに使われるのはエチオピア原産のアラビカ種と、中央アフリカ原産のカネフォーラ種(ロブスタ種)の2種類が大半を占めている。
おいしさは、味覚のほか皮膚感覚、香り、テクスチャー、温度などさまざまな要因が絡み合って形成される。コーヒーのおいしさを表す言葉を分析すると、香りや苦味に対しておいしさを感じている人が多いことがわかる。本来、苦味は微量で感知される鋭敏な感覚である。これは人体に有害な物質を避けるためと考えられている。生理的に避ける苦味を、コーヒーだと「おいしい」と感じるのは、いくつかの要因がかかわっている。
例えば17世紀に中東で初めてコーヒーを飲んだヨーロッパ人旅行者や日本で江戸時代にコーヒーを飲んだ文人は、「おいしくない」と評している。それがそれぞれの時代や地域でコーヒーが普及するにつれて、おいしいと認識されるようになった。飲む人自身の苦くても安全だという経験や学習、社会的文化的に苦味をおいしいと認められる環境、ほどよい苦味、苦味にともなう豊かな質感などによって、受け入れられているのである。
苦味を含む味覚は、舌にある味覚受容体というタンパク質が働くことで感じ取ることができる。しかし、この味覚受容体は誰にでも同じように存在するものではない。例えば、ある種類の苦味を感知できない「PTC味盲」は劣性遺伝する先天性のもので、世界の約3割の人が該当している。これは味覚の嗜好は後天的な経験だけでなく、先天的な遺伝要素も関与することを示唆している。
味覚だけでなくコーヒーの苦味や酸味に含まれる物質が舌の上でどのくらいとどまっているかによって、飲んだ時の質感が変わる。また、口中香や戻り香も含めた「香り」が、おいしさの一部を担う。カフェインによる薬理的なはたらきで気分が高揚することも、嗜好品としてのおいしさに含まれている。
では、コーヒーのおいしさを構成しているものは何か。カフェインにも苦味があるが、最新の研究では
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