コーヒーの科学
コーヒーの科学
「おいしさ」はどこで生まれるのか
コーヒーの科学
出版社
出版日
2016年02月20日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

コーヒー好きな人にとっては、その存在はなくてはならないものである。豊かな味と香り、苦いのにほっとして、リラックスするとともに元気が湧いてくる。本書は、基礎医学の研究者で「コーヒーおたく」の著者が約二十年にわたって研究収集した科学論文に基づく知見と多くの図版を基に、コーヒーを「科学的な視点」から紐解いた一冊である。

コーヒーの起源、なぜアラビカ種とロブスタ種がシェアの多くを占めるようになったか、コーヒーノキの果実のしくみなど、植物としてのコーヒーノキに焦点を当てた序盤から始まり、「おいしいコーヒー」とは何かを徹底的に分析。おいしさが生まれるプロセスである焙煎ではコーヒー豆にどのような物理的変化、化学的変化が起きているか。そして私たちの口に入るコーヒーとして抽出する際、粉と水の間にどのような移動が起きているのか。科学的な裏付けをもった、エスプレッソのように濃縮されたコーヒーに関するさまざまな情報に、あなたの知的好奇心はそそられるだろう。コーヒーに詳しくない人はもちろん、自分で抽出や焙煎に挑戦している人にも読みごたえがあり、コーヒーに対する知識の幅は間違いなく広がるだろう。

コーヒーの健康への影響についても、断片的な話ではなく、医学博士でもある著者の知見と経験をもって科学的論拠に基づき展開されている。本書で一風変わった「科学から見たコーヒーの世界」を味わっていただきたい。

著者

旦部 幸博(たんべ ゆきひろ)
1969年長崎県生まれ。京都大学大学院薬学研究科修了後、博士課程在籍中に滋賀医科大学助手へ。現在、同学内講師。医学博士。専門は、がんに関する遺伝子学、微生物学。人気コーヒーサイト「百珈苑」主宰。自家焙煎店や企業向けのセミナーで、コーヒーの香味や健康に関する講師を務める。著書に『コーヒー おいしさの方程式』(共著、NHK出版)。

本書の要点

  • 要点
    1
    コーヒーのおいしさには豊かな苦味と香り、コクなどが挙げられるが、それらは様々な成分が複雑に絡み合うことにより形成されている。
  • 要点
    2
    生豆の状態ではコーヒーのおいしさは全くなく、焙煎による多数の物理的変化、化学的反応によって味と香りの豊かさが引き出されている。
  • 要点
    3
    コーヒー抽出は、時間が経過して、抽出量が増えるにしたがって、雑味が増える傾向がある。適切なタイミングで抽出をやめることが重要である。
  • 要点
    4
    コーヒーには体によい面もリスクとなる面もあるが、自分の適量を知って楽しむことが大切である。

要約

コーヒーとは何か

コーヒーノキとその起源
yuriyzhuravov/iStock/Thinkstock

コーヒーの原料は「コーヒーノキ」というアカネ科の植物の種子である。花が咲いたあと赤や黄色の果実ができる。その中に果皮や果肉があり、さらに粘性のある果肉層や薄い殻などに覆われるかたちでコーヒーの種子、いわゆる「生豆」が入っている。農園で収穫された果実から生豆を取り出し(精製)、乾煎りして水分を飛ばす「焙煎」を経て、細かく砕いてコーヒー豆の成分を水やお湯に「抽出」することで、私たちが普段飲んでいるコーヒーとなる。コーヒーノキは元々アフリカ大陸と南・東南アジアに自生していたものが世界中に広がり現在では125種が知られている。しかし飲用のコーヒーに使われるのはエチオピア原産のアラビカ種と、中央アフリカ原産のカネフォーラ種(ロブスタ種)の2種類が大半を占めている。

おいしさの理由

「おいしい苦味」の謎

おいしさは、味覚のほか皮膚感覚、香り、テクスチャー、温度などさまざまな要因が絡み合って形成される。コーヒーのおいしさを表す言葉を分析すると、香りや苦味に対しておいしさを感じている人が多いことがわかる。本来、苦味は微量で感知される鋭敏な感覚である。これは人体に有害な物質を避けるためと考えられている。生理的に避ける苦味を、コーヒーだと「おいしい」と感じるのは、いくつかの要因がかかわっている。

例えば17世紀に中東で初めてコーヒーを飲んだヨーロッパ人旅行者や日本で江戸時代にコーヒーを飲んだ文人は、「おいしくない」と評している。それがそれぞれの時代や地域でコーヒーが普及するにつれて、おいしいと認識されるようになった。飲む人自身の苦くても安全だという経験や学習、社会的文化的に苦味をおいしいと認められる環境、ほどよい苦味、苦味にともなう豊かな質感などによって、受け入れられているのである。

コーヒーのおいしさはどこから来るか

苦味を含む味覚は、舌にある味覚受容体というタンパク質が働くことで感じ取ることができる。しかし、この味覚受容体は誰にでも同じように存在するものではない。例えば、ある種類の苦味を感知できない「PTC味盲」は劣性遺伝する先天性のもので、世界の約3割の人が該当している。これは味覚の嗜好は後天的な経験だけでなく、先天的な遺伝要素も関与することを示唆している。

味覚だけでなくコーヒーの苦味や酸味に含まれる物質が舌の上でどのくらいとどまっているかによって、飲んだ時の質感が変わる。また、口中香や戻り香も含めた「香り」が、おいしさの一部を担う。カフェインによる薬理的なはたらきで気分が高揚することも、嗜好品としてのおいしさに含まれている。

では、コーヒーのおいしさを構成しているものは何か。カフェインにも苦味があるが、最新の研究では

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要約公開日 2016.07.30
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