企業がマーケティングに期待する役割とは、売上を伸ばすことである。しかしマーケティング部門だけで売上を伸ばすことができるわけではない。マーケティング部門が考えた、売上を伸ばす策を実行するのは企業全体、全ての従業員である。つまり、マーケティングとは企業の「頭脳」であると同時に、多くの部署を動かす「心臓」の役割も担うのである。
企業の進むべき方向性を見極める頭脳としての「マーケター」が最初にすべき重要な役割がある。それはビジネスを好転させるための衝くべき焦点、即ち「着眼点」を見極めることだ。企業として頑張るべき焦点、つまり、「どこで戦うか」を正しく設定し、そこに会社の努力を集中させ、正しい方向へ皆を引っ張っていくことが「マーケティングの使命」である。
著者がユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下USJ)に入社した2010年以降、USJは集客を600万人以上積み上げ、売上を倍以上に、利益は数倍の伸長を遂げた。V字回復を果たしたのである。
このV字回復を達成するための原動力は、1つの点に集約されるという。それは、USJが「消費者視点」の企業に変わったことである。消費者視点とは、「消費者の方を向いて消費者のために働け」という考え方のことで、「どれだけの消費者価値につながるのか」の1点に尽きる。
「消費者の方を向いて働く」は、考えれば当たり前のことである。しかし企業単位では「消費者視点」で一致団結することは困難だと著者は考える。企業のような多くの人が集まる集団では、企業の利害と個人の利害は必ずしも一致しないからである。企業内には各部門の様々な利害のベクトルが縦横無尽に存在する。そしてその調整を図ると、「消費者にとってベスト」からどんどん離れていくことになる。いわゆる「落としどころ」は、ほとんどの場合で消費者にとって最適ではないのである。
マーケターは企業の中で消費者理解の専門家として各部門のしがらみの間に立つことが求められる。消費者価値を最大化できるように、しがらみの中でもリーダーシップを発揮し周囲を説得して、実現に向けて人を動かすことが重要となる。
日本の多くの製造業が不振に陥っている。これは長年技術力に依存し、マーケティングを軽視したのが原因ではないかと、著者は考えている。欧米の企業ではマーケティング出身者が社長になっているケースが非常に多いが、日本の企業では、ほとんど目にすることがない。そもそも日本企業の多くのマーケティング部は機能していない現実がある。たとえば、大企業のTVCMでも、「自社のビジネスを伸ばす」という目的を達成しているものは数少ない。
マーケティングは巨大な自由主義経済市場のアメリカで、企業が生き残るための消費者最適を担保する知恵を体系立てたものだ。アメリカの自由主義経済によって育てられた、実戦学と言える。日本でマーケティングの発達が遅れた理由は、日本独自の環境が原因である。規制による競争阻害、マーケティングを行う人材を集める障害となる、終身雇用と年功序列制。そして企業の「良い製品を作れば売れる」という技術志向の考えが根強かったことがあげられる。
日本の市場は成熟し、少子高齢化により縮小することが見込まれる。そのため、日本の大企業は海外で戦う必要に迫られている。世界のビジネスでは自由競争を避けることはできない。「良い製品を作れば売れる」の時代は終わり、「売れたものが良いもの」という時代が到来した。これからの時代を生き抜くのは、マーケティングを重視して、技術力を活用する企業である。
現代は、優れた技術力があっても、競争優位や市場創出を実現できる技術革新が頻繁に起こらない時代となっている。またマーケティング力がないと、技術力を発揮する方向性を定めることが難しい。逆に「売る種」となる技術力が全く無いのに、売り方のアイデアや工夫だけでは、継続してビジネスを行うことは困難である。
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