2015年10月、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は175万人を集客し、東京ディスニーランド(TDL)の同月の来場者数(推計値約160万人)を抜いて日本一のテーマパークとなった。さらに、2010年では730万人だった年間来場者数が、2015年には1390万人となり、5年間で660万人も来場者数を増やした。
このV字回復ともいえる成功をもたらしたのは、「ハリー・ポッター」をはじめとした60以上の新規プロジェクトだった。市場構造や消費者の本質を理解したビジネス戦略に則って企画、実行されたからこその結果だった。
ビジネス戦略の成否は確率で決まる。だが、ビジネスの本質的な法則を理解すれば、その確率はある程度操作できる。コントロールしやすい領域とそうでない領域を見分け、経営資源をコントロールできる領域へと集中させることで、成功確率は劇的に高められるのだ。
成功確率の高いビジネス戦略を選ぶためには、市場構造を理解することが必要不可欠だ。著者がUSJの新規プロジェクトをことごとく成功に導けたのは、市場構造の理解に思考を集中させてきたからにほかならない。
市場構造とは、ある商品カテゴリーにおける、人々の意思・利害・行動すべてを勘案したうえでの業界全体の仕組みのことだ。そして、その市場構造を形作っている「本質」こそが、消費者のプレファレンス(ブランドに対する相対的な好意度)なのである。
それぞれの商品カテゴリーには、それぞれの市場構造がある。しかし、市場構造の本質そのものはどのカテゴリーでも変わらない。たとえば、「パンケーキ」「歯磨き粉」「図書館の本」の3つはそれぞれ異なるカテゴリーに属するが、プレファレンスにもとづいてカテゴリー構造が形成されているという意味では同じである。
また、購買行動を支配する法則も同様だ。どのカテゴリーでも、(1)消費者ひとりひとりが独自に購買決定をしている、(2)購入行動はランダムに発生している、(3)それぞれのカテゴリーに対してほぼ一定のプレファレンスを持っている、(4)プレファレンスの高いものはより高頻度で購買される、という4つの法則が見られる。
カテゴリーの市場構造はプレファレンスによって決定されると言っていい。なぜなら、どれくらいの割合の人がそのカテゴリーを購入するのか(浸透率)も、そのカテゴリーの商品を何回購入するのか(購入回数)も、そのカテゴリーに対する消費者のプレファレンスによって決まるからだ。まさに、「市場競争とは、ひとりひとりの購入意思決定の奪い合いであり、その核心はプレファレンス」というわけである。
プレファレンスを上げることは、シェアを上げることに等しい。シェアが上がると結果として売り上げが伸びるし、それ以上に会社のパフォーマンスを上げることにつながる。だからこそ、どの企業も消費者視点を最重視して、プレファレンスの向上に経営資源を集中させる必要がある。
売上を決定づけるのは、自社ブランドに対する消費者のプレファレンスだ。しかし、それは「認知」と「配荷」によって制限を受けてしまうものである。そのため、売上を伸ばすためには、(1)プレファレンス、(2)認知、(3)配荷の3つを高めなければならない。
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