「優秀な人材は大企業に多く、中小企業には少ない」という固定観念に縛られている中小企業の社長や採用関係者は多い。だが、そのような考えをもっていると、「中小企業は優秀な人材を採用する必要がない」という採用観をもってしまいかねない。
大企業の場合、「提供するサービスや商品を常に同質に保たなければならない」という社会的責任がある。だから、いかなる社員が携わっても、最終的には品質が維持されるように、さまざまな仕組みが施されている。
一方、中小企業では、場合によっては入社したその日から自分の頭で考え、自分の足で動くことが求められる。そのため、自力で成果をあげられる人材がひとり入社するだけでも、生産性の向上に大きな影響をおよぼす。
中小企業が人を採用することの意味と価値は、大企業の採用とは比較にならないほど大きい。中小企業はこのことを再認識し、誇りをもって採用活動にあたるべきだ。
人を採用するときはウキウキするものである。しかし実際のところ、採用活動というのは、退職勧奨、懲戒解雇、労働審判、訴訟といった、血生臭いものと常に背中あわせの世界だ。問題の多い社員は、社長や管理職の心を蝕み、会社に大きな損失をもたらしてしまう。だからこそ、採用は大きなリスクと隣り合わせだということを十分に認識しておく必要がある。リスクマネジメントこそが、採用活動の本質なのだ。
できない人材を見抜くうえでは、「リスクをつぶしていった結果、どこにも見つからなければ優秀な人材である」という、一見すると後ろ向きに感じられるアプローチが重要になる。厳しい視点を持ってストイックな採用を貫いた会社だけが、後にみんなで笑いあえることを肝に銘じなければならない。
勉強で使う頭と、質的生産性の高い仕事に必要な頭はまったくの別物だ。学力の高さを見て、「優秀な仕事人」をイメージするのは見当違いである。
「それぞれ頭の機能が違うのだから、学力の高い人に仕事力の足りない人がたくさんいるのは当たり前」であり、「学力がそれほどでもない偏差値の低い大学の学生の中に、仕事力の高い人が一定数存在するのも当たり前」と、合理的に捉えられることが、生産的な採用活動への第一歩となる。
人材を採用する際は、経歴や学歴などの「持ち物」に惑わされず、応募者という「使い手」の能力に目を向けなければならない。
採用面接でとらえることのできる能力情報は、いわゆるルーティンワークや、仕事を覚える力に関係があるものが多い。一方で、問題解決やマネジメントといった、レベルの高い仕事に対応するための能力、たとえば「未知の場面で動く力」や「ゼロからイチを産む力」は、採用面接ではほとんど見きわめることができない。
たしかに採用面接は、応募者と採用側のニーズを確認しあうための情報交換の場として必要不可欠だ。だが、その限られた時間を、応募者の能力を見きわめる唯一の機会と位置づけているかぎり、採用ミスが減ることはない。採用面接だけで人を判断するのは危険なのである。
応募者と向きあうことができる場所は、なにも面接だけではない。応募者の行動を観察できる機会を増やし、応募者の行動情報に少しでも多く触れることが、「面接では見えにくい能力」にアプローチするための手がかりとなる。
エントリーシートや説明会のアンケート、市販の適性検査、グループワークや面接での発言内容など、応募者が「言ったこと」「書いたもの」は枚挙にいとまがない。しかし、そのような情報は、採用されるために創作されたものである可能性が高い。そもそも、応募者が採用側の喜びそうなことを書くのは当然のことである。ゆえに、こうした情報はあくまでも参考程度に留めておかなければならない。
その人のもっている能力を本当に表現するのは「行動」だけである。その人の行動特性を見定めたければ、「何をしたか」という行動情報をたくさん集めることが肝要だ。そのためには、エントリーシートや発言内容に注目するのではなく、
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