かつて、ファッションショーの最前列席「フロントロウ」は、著名な業界人やセレブ専用の特別な場所だった。しかし、2010年、ファッションショーのフロントロウには、フィリピン出身の人気ファッション・ブロガーが座していただけでなく、コレクションの様子がライブ中継までされた。このことは、長い間「エクスクルーシブ」なイメージを大切にしていたハイファッションの業界ですら、ソーシャルメディアの口コミの重要性を認めざるを得なくなったことを示している。
スマートフォンの普及により、売り場を訪れた人は、手元で商品名を検索すれば、ネット上の評判や店ごとの価格の違いをチェックできる。その結果、評価が悪ければ購入につながらず、もっと安く販売する店に消費者が流れるようになってしまった。さらには、企業が必死にブランドのイメージを高める広告を作り、多額の予算を使ってメディアに掲載しても、ユーザーは広告よりもソーシャルメディアから流れてくる友人の口コミを重視するようになっている。
こうして、企業が能動的に「売ろうとして売る」ことが非常に難しい時代となった。このような状況は、消費者に「モノ」を売りたい企業にとって、最悪といってよい。
スマートフォンとソーシャルメディアを手にした新しい消費者と、正面から向き合っていく上でのカギは何か。それは「ブランドが消費者にとって特別な意味を有する」状態を生み出すことである。そのブランドに絆を感じ、ファンになった人にとっては、その商品は「特別なもの」であり、容易に「他の商品では替えられない価値」を見出すようになる。
現代の消費者は自分たちだけのコミュニティに集い、自分たちだけの価値を共創している。彼らはコミュニティの外にある企業の広告には目を向けない。しかし、そのコミュニティに向けて「魅力的なブランドがある」と伝えることに成功すれば、熱心なファンになってくれやすい。
そのためには、厳しい判断基準を持った消費者の監視に耐え得る、確固としたDNAをブランド側が築かなければならない。表面上「良いこと」を訴えても、それが実体を伴っていないことが公になれば、即座に信用を失ってしまう。だからソーシャルメディアが普及した時代において、ブレない、確固としたブランドを持ち、それをマネジメントしていくことは非常に重要となる。
デジタル戦略を考える上では、体験の創造が重要である。人々は広告にはなかなか「いいね!」を押さない。一方、友人が「好きなアーティストのコンサートに行った」と体験を語る投稿には「いいね!」を押し、その感動を共有したい、自分も体験したいという欲求に駆られる。
そこで、企業は消費者のコミュニティに入り込み、彼らが感動するような体験をデザインすることが求められる。それは商品やブランドにまつわる「良い口コミ」となって、爆発的に広まる可能性を持つ。
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