大手ファストフード店の中で、株式会社モスフードサービスの運営するモスバーガー(以下、モス)と、日本マクドナルド株式会社の運営するマクドナルド(以下、マック)を比べると、「マックは不調で、モスは好調」というイメージが強い。
しかし売上高を見てみると、モスの成長は伸び悩んでいる。ここ20年間の店舗の数を見ても、マックに次いで2位の位置にとどまりつづけていることからも、それは明らかであろう。
1998年以降から続く、櫻田厚現社長時代のモスを「成熟期」と呼ぶ人もいるが、著者の見解は異なる。著者は、前社長であった故・櫻田慧氏の時代までを成長時代とし、現在は長期低迷時代が続いていると考えている。
この原因は、慧氏から厚氏への社長交代したことにある。慧氏はもともとカリスマ経営者として有名で、加盟店から信頼と尊敬が厚かった。しかし慧氏亡き後、厚氏に社長交代したことで、本部と加盟店のパワーバランスが崩れてしまった。そして、それまで10%前後あった営業利益率が急減してしまったのだ。
モスの海外店舗323店(15年6月末)の大部分は、アジアとオーストラリアに集中している。なかでも台湾では240店と、最大の店舗数を構えている。しかしながら、この海外展開を実質的に担当しているのはモスではなく、台湾での合弁会社「安心食品服務股ヒン有限公司」だ。台湾での店舗はすべて安心食品の直営で、他のアジアやオーストラリアのオペレーションも、安心食品服務が展開している。
現在、モスは安心食品服務に3割ほどしか出資しておらず、現地に派遣されている社員も2名のみにとどまっている。実質的に、安心食品服務は現地パートナーの力のみで経営されているといっていい。好調な海外展開を担っているのは、モスフーズではないわけだ。
日本ではマック離れが叫ばれて久しいが、マックを離れていった層をうまく取り込むことができていない現経営陣に、本格的な反転攻勢をしかけるための策があるとは思えない。モスが現状を打破するためには、活発に展開している安心食品服務に、早い段階で経営を移譲したほうがいいだろう。かつて、米サウスランド・アイスはセブン-イレブン(以下、セブン)を生み出し、イトーヨーカ堂(当時)に日本におけるセブンのローカルフランチャイザー件を賦与した。ところが、イトーヨーカ堂はその後、サウスランドを子会社にし、現在のサウスランドは、セブンとイトーヨーカ堂を傘下に収めるセブン&アイ・ホールディングスの完全子会社となっている。モスも同じ手法で発展をめざすべきではないだろうか。
株式会社ヨドバシカメラ(以下、ヨドバシ)は、強固なビジネスモデルを持っている。実際、家電量販大手の2015年3月期決算による、対前年比増減の結果からも、ヨドバシが家電量販大手の中で、際立って優れた経営実績を残していることがわかる。しかも2010年3月期以来、7~8%台の経常利益率を続けているのだ。これは尋常なことではない。
その秘密は、ヨドバシの独自の経営戦略にある。他の大手家電量販店が多店舗展開する中で、ヨドバシは、たとえ業態が大きくなろうとも、むやみに店舗数を増やさなかった。しかも、大都市の駅近にだけ店舗を構えることにこだわり、本書が出版された段階では21店舗だけしかない。これはヨドバシが非上場の同族企業だからこそできる戦略である。
こうして店舗数を抑えることで、社員数を急激に増やす必要がなくなり、店員の教育をしっかりと行うことができる。実際、店員の在社平均年齢は高く、商品知識や接客技術は家電量販店の中でも群を抜いている。JCSI(日本顧客満足度指数)でも家電量販店の分野において、5年連続1位を獲得している。店舗数拡大に走ったヤマダ電機が、「日経ビジネス」(日経BP社)の顧客満足度調査で毎年ワースト1となっているのとは対照的だ。
さらに、ヨドバシのIT化戦略にも注目したい。
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