時は2017年。日本は重大な危機に瀕していた。このままいくと、日本の総人口が2050年には8800万人を下回り、総人口の40%が65歳以上の高齢者になるという。また、生産年齢人口の激減によって、年金の積立金が枯渇するだけでなく、医療や介護費など膨張する財政支出を支えることがほぼ不可能となっている。この事態は外交や安全保障にも大きな影を落としていた。
安全保障の面では、アジア太平洋地域のパワーバランスの変化が著しい。この地域の秩序を守り、日本が依存してきたアメリカの存在感が色あせようとしていたのだ。また、安倍首相が掲げた経済政策「アベノミクス」の効果も期待できない。法人税の引き下げや農業の大幅規制緩和、母親のフルタイム勤務の促進、成果に応じた賃金システムの確立。いずれの施策も実現の見通しが立たず、GDPの実質成長率や世帯収入はほとんど向上していない。さらには、日本国内の人的資源に目を向けると、海外へ留学する学生は減少し続け、若者たちは親世代に比べて明らかにリスクを嫌う傾向にあることが明白となっていた。
これは、明治時代や敗戦後の日本が経験したのと同様の、国家存亡を脅かす危機である。しかし、日本は過去150年の間に、こうした2度の危機を乗り越え、再生を果たしてきた。ゆえに、今度も、抜本的な再生計画によって日本がよみがえる可能性はある。
一縷の望みをかけて、日本の国会は、第二の「岩倉使節団」と呼ぶべき「特命日本再生委員会」の結成を決めた。ここからは、委員会がどのように日本再生を先導し、2050年にどんな未来を迎えるのかという未来図を、安全保障と新・日本的経営モデルを中心に紹介していく。
2050年、日本では太平洋・インド洋相互安全保障同盟の会議が開かれようとしていた。これまでは、アメリカが同盟国を守るという、一方的な安全保障体制が敷かれていた。しかし今では、それにかわって、相互安全保障がアジア太平洋地域の安定を支える根幹となっている。世界の安全保障をリードしているのは日本であり、日米二国間協定は、北大西洋条約機構(NATO)よりも重要な意味を持っている。アメリカによって維持されていた平和、すなわちパックス・アメリカーナは終焉を迎え、「パックス・インド――パシフィカ(太平洋の平和)」へと姿を変えた。
こうした将来を予期させる3つの問題は、2017年の時点ですでに起きていた。
1つ目の問題は「日韓の摩擦」である。日本と韓国は竹島の奪い合いを続けており、韓国では反日感情が高まっていた。
2つ目の問題は、「尖閣諸島をめぐる日中の対立」だ。尖閣諸島をめぐる領有権争いは、第二次世界大戦後から決着がつかないままだった。2013年、中国は突如、尖閣諸島上空を含めた新たな防空識別圏(ADIZ)を設定した。
ところが、頼みの綱のアメリカは、日本による尖閣諸島の実効支配を認めつつも、領有権自体については特定の立場をとらなかった。そのため、日本は不安を募らせるばかりだった。また、オバマ米大統領の「アジアへの軸足移動」という政策は掛け声倒れも同然で、安保条約による「同盟国を守る義務」が、アメリカの国益と相いれないことが明白になっていった。このような状況により、日本は、最終的な防衛をアメリカに依存していた戦略を再考せざるを得なくなったのだ。
そして3つ目の問題は、「アメリカの防衛戦略における2つの選択肢」である。これらの選択肢は次の2つの戦略を指す。
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