2050 近未来シミュレーション日本復活

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2050 近未来シミュレーション日本復活
出版社
東洋経済新報社
出版日
2016年07月22日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

財政は悪化の一途をたどり、人口減少も歯止めがかからない。そんな活力を失っている日本に、再起のシナリオを提唱したのが本書である。

著者は1980年代、レーガン政権時に「ジャパン・バッシャー(日本叩き)」として名をとどろかせ、日米貿易摩擦の際は対日交渉担当官として腕をふるった人物だ。彼は、日本の再起を切望している。今日のグローバル・サプライチェーンの基盤となる「ジャスト・イン・タイム」の概念や、継続的な業務改善を指す「カイゼン」。世界経済を下支えするコンセプトやプロセスを生み出したのは、紛れもなく日本だ。著者は、超経済大国としての日本が衰退すれば、アメリカをはじめグローバル経済に甚大な悪影響を及ぼすと警鐘を鳴らしている。

日本再生に向けた彼の提言は、「国防費を現在の2倍にする」、「移民受け入れと英語の公用語化を進める」、「従業員の解雇をしやすくするよう新しい労働法を制定する」など、大胆不敵なものばかりである。だが、これらが奏功すれば、2050年を迎える頃には、日本は軍事力をつけ、独自の平和外交を推進し、イノベーション立国・世界の経済大国として不動の地位を手にすることができるという。

本書を読めば、現在の日本が抱えている諸問題を俯瞰でき、日本の進むべき道を考えるヒントが数多く得られるだろう。果たして、本書に描かれた日本復活劇は現実のものとなるのだろうか。

ライター画像
松尾美里

著者

クライド・プレストウィッツ
Clyde Prestowitz
1941年米国デラウェア州生まれ。スワスモア大学卒業、ハワイ大学東西センターで修士課程(極東アジア地域・経済学専攻)修了、ペンシルベニア大学ウォートン校で経営修士課程修了。その間、慶應義塾大学にも留学。初めて来日したのは1965年、それ以降1970年代にも再度外資系企業役員として日本に滞在する。国務省勤務、民間企業勤務などを経て、1981年商務省に入り、86年までの間、レーガン政権で商務長官特別補佐官などを務め、自動車や半導体などの日米貿易交渉をはじめ中国、ラテンアメリカ、ヨーロッパ諸国との数々の貿易交渉にあたる。現在、経済戦略研究所(Economic Strategy Institute)所長。太平洋経済委員会の副議長や、上院議員時代のヒラリー・クリントン氏の貿易・通商アドバイザーも務めた実績がある。日米貿易摩擦時に辣腕対日交渉担当官として鳴らし、テレビ・新聞・雑誌などで日本に多数の提言を行っている。著書にベストセラー『日米逆転』(ダイヤモンド社)、『ならずもの国家アメリカ』(講談社)、『東西逆転』(日本放送出版協会)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    日本は国家存亡を脅かす危機に直面しているが、過去150年の間に2度の危機を乗り越え、再生を果たしてきた。抜本的な再生計画によって日本は復活できる。
  • 要点
    2
    パックス・アメリカーナの終焉に伴い、日本は防衛力を高め、アメリカ一辺倒ではなく、より幅広く緊密な同盟関係を築く必要がある。そうすれば、アジア太平洋地域の安全保障を日本がリードできる可能性がある。
  • 要点
    3
    終身雇用などを特徴とする日本的経営から、生産性の向上を追求する「新・日本的経営モデル」を模索すべきである。

要約

2017年、国家存亡を脅かす危機

停滞が続く日本

時は2017年。日本は重大な危機に瀕していた。このままいくと、日本の総人口が2050年には8800万人を下回り、総人口の40%が65歳以上の高齢者になるという。また、生産年齢人口の激減によって、年金の積立金が枯渇するだけでなく、医療や介護費など膨張する財政支出を支えることがほぼ不可能となっている。この事態は外交や安全保障にも大きな影を落としていた。

安全保障の面では、アジア太平洋地域のパワーバランスの変化が著しい。この地域の秩序を守り、日本が依存してきたアメリカの存在感が色あせようとしていたのだ。また、安倍首相が掲げた経済政策「アベノミクス」の効果も期待できない。法人税の引き下げや農業の大幅規制緩和、母親のフルタイム勤務の促進、成果に応じた賃金システムの確立。いずれの施策も実現の見通しが立たず、GDPの実質成長率や世帯収入はほとんど向上していない。さらには、日本国内の人的資源に目を向けると、海外へ留学する学生は減少し続け、若者たちは親世代に比べて明らかにリスクを嫌う傾向にあることが明白となっていた。

日本復活のシナリオをめざして
bee32/iStock/Thinkstock

これは、明治時代や敗戦後の日本が経験したのと同様の、国家存亡を脅かす危機である。しかし、日本は過去150年の間に、こうした2度の危機を乗り越え、再生を果たしてきた。ゆえに、今度も、抜本的な再生計画によって日本がよみがえる可能性はある。

一縷の望みをかけて、日本の国会は、第二の「岩倉使節団」と呼ぶべき「特命日本再生委員会」の結成を決めた。ここからは、委員会がどのように日本再生を先導し、2050年にどんな未来を迎えるのかという未来図を、安全保障と新・日本的経営モデルを中心に紹介していく。

【必読ポイント!】 パックス・パシフィカ

パックス・アメリカーナの終焉

2050年、日本では太平洋・インド洋相互安全保障同盟の会議が開かれようとしていた。これまでは、アメリカが同盟国を守るという、一方的な安全保障体制が敷かれていた。しかし今では、それにかわって、相互安全保障がアジア太平洋地域の安定を支える根幹となっている。世界の安全保障をリードしているのは日本であり、日米二国間協定は、北大西洋条約機構(NATO)よりも重要な意味を持っている。アメリカによって維持されていた平和、すなわちパックス・アメリカーナは終焉を迎え、「パックス・インド――パシフィカ(太平洋の平和)」へと姿を変えた。

覚醒のとき――3つの変化
Wlad74/iStock/Thinkstock

こうした将来を予期させる3つの問題は、2017年の時点ですでに起きていた。

1つ目の問題は「日韓の摩擦」である。日本と韓国は竹島の奪い合いを続けており、韓国では反日感情が高まっていた。

2つ目の問題は、「尖閣諸島をめぐる日中の対立」だ。尖閣諸島をめぐる領有権争いは、第二次世界大戦後から決着がつかないままだった。2013年、中国は突如、尖閣諸島上空を含めた新たな防空識別圏(ADIZ)を設定した。

ところが、頼みの綱のアメリカは、日本による尖閣諸島の実効支配を認めつつも、領有権自体については特定の立場をとらなかった。そのため、日本は不安を募らせるばかりだった。また、オバマ米大統領の「アジアへの軸足移動」という政策は掛け声倒れも同然で、安保条約による「同盟国を守る義務」が、アメリカの国益と相いれないことが明白になっていった。このような状況により、日本は、最終的な防衛をアメリカに依存していた戦略を再考せざるを得なくなったのだ。

そして3つ目の問題は、「アメリカの防衛戦略における2つの選択肢」である。これらの選択肢は次の2つの戦略を指す。

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要約公開日 2016.09.20
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